恋の甘さ
腰を痛めた時に仰向けに寝るのは苦しい。 横向きに寝る方が楽なのだが、そうすると今度は肋骨に負担がかかる。 数日前、鴆はリクオを抱き上げようとして、ぎっくり腰になった上に肋骨にヒビまで入った。 そんなわけでここ数日は夜も眠れぬほど苦しんだが、やっと横を向いて寝ても差し支えない程度になった。 ただし寝がえりを打つには苦痛を覚悟しなければならない。 そういう状態だったから、その時鴆が部屋の入口に背を向けて寝転がっていたのは仕方のないことだった。 「鴆、具合はどうだ?」 慌てて向きを変えようとした途端、腰と肋骨両方が悲鳴を上げ、鴆は絶句した。 「ああ、いいから寝てろって。メシ持って来たぞ」 リクオは枕元に膳を置くと、鴆が元の横向きの体勢になるのを手伝ってくれた。 ここのところ、ただ横になっているのも苦しくて、しかも一日寝てばかりなので、まったく食欲がわかなかった。 「やっぱ、この体勢じゃあ飲めねえか。ストロー使うか?」 ねだる鴆に応えて、リクオがもう一度酒を口に含む。今度はあまりこぼさずに飲むことができた。 「うめぇ」 おめーが食欲ねぇって聞いたから。 嬉しそうに笑うリクオに、さては番頭だな、余計なことを。と鴆は思った。 年上の男として、これ以上リクオに恰好悪いところは見せたくないのだが。 「料理はこれで一通りだが・・・食いたいもんはあるか?」 真顔で本心を言えば、リクオは今度は頬まで赤く染めて、目をそらした。 「 ・ ・ ・治ったらな」 それまで握り飯すら残していた鴆が、その夜リクオが持ってきた料理は残さず食べた。 |
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