竜田姫
赤や黄色で彩られた山は、夕陽を受けて燃えているようだった。 周りの木々も、隣に佇んでいるリクオも、さまざまな色を含んだ赤に染まっている。 寒空に浮かぶ月を思わせる金色の双眸も、今は周囲の赤を映していた。 ここは奴良組が所有する山の一つ。 人が立ち入らぬこの山には妖気が濃く立ち込め、日が上ってもリクオは夜の姿のままだ。 初めて明るい陽の光のもとで見る夜のリクオは、驚くほど白く、繊細で、儚げだった。 普段は鴆よりもよほど頼もしい魑魅魍魎の主が、それほど危うげに見えるのは、 かなり妖力を消耗しているせいかもしれない。 さらうようにここに連れてきたのは、数日でも休ませるためだった。 夕日の色に染まった山道を、手を繋いでゆっくりと歩いた。 秋も終りになると外気は冷たい。 山を流れる川の水はさらに冷たいだろう。 リクオはさらさらと静かな音を立てている流れの傍にしゃがみこみ、 流れてくる紅葉の葉に白い指先で触れた。 その表情は無心で、すぐ傍にいるのに手が届かないような、 触れたら消えてなくなってしまいそうな危うさを含んでいて、鴆を焦らせた。 伸ばしたリクオの指先に紅葉は留まり、離すとまた流れに戻っていく。 リクオは飽くことなく、流れてくる紅葉に手を伸ばす。 彼が見るもの触れるものすべてが色づき、意味を持つように思えた。 鴆は流れに延ばされた白い手を取ると、冷たい水に浸されていた指先に、己の熱をわけるように唇を押しあてた。 |
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