紅い椿 雪に広がる
未曾有の大雪が降った翌日の晩。リクオは蛇妖怪に乗って薬鴆堂を訪れた。 電車が止まって学校には行けず、本家総出の雪かきで身体じゅうが筋肉痛でぎしぎしいっていて。 おまけにこの雪では、家か店で飲むくらいしか選択肢はない。 要するに暇を持て余していた。 凍りつくような上空から薬鴆堂に近づくと、明かりのついた部屋の前の縁側に、佇む鳥妖怪の姿があった。 白い息を吐きながら、雪に覆われた庭を眺めている。 何やってんだ?と見ていたら、向こうもこちらに気づいた。 「ったく、朧車で来りゃいいのによ」 リクオが縁側に降り立つなり、頬に手を当て、こんなに冷え切って、と顔をしかめる鴆に、何見てたんだ?とたずねる。 ああ、と庭に視線を戻すその先を目で辿ると、雪の上に点々と転がる真紅の椿の花があった。 木に降り積もった雪の重みで落ちたのだろうか。花は咲き初めのものも盛りのものもあって、 みずみずしい花弁にはところどころに雪がついている。 「な、風流だろ?」 無残に落ちた花を、鴆はどこか愛おしげに見つめている。 純白の雪の上に点々と散る紅。 それは風流とか綺麗とか言う以前に、嫌なものを連想してしまって。 「リクオ?」 気が付いたら抱きしめていた。 自分からこの男を奪おうとする何かから、この男を守るように。 「…てめーだって冷え切ってんじゃねえか」 肩に顔を埋めたまま、言い訳めいたことを呟けば、鴆は、オレは平気だけどよ、 とリクオの背中を甘やかすようにぽんぽんと叩いた。 「ま、中に入ろうぜ。何を考えたか知らねえが、とことん相手してやっからよ」
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