恋の重さ
「ちょっ…あぶねぇッ…!!」 夜のリクオにしては珍しく焦った声が終わらぬうちに、二人は鈍い音を立てて畳に転がった。 「…ってぇ…」 鴆を下敷きにする形で転がったリクオは、それでも肩と頭をしたたかに打ち付け、 「おめぇ、重くなったなぁ」 リクオを胸に乗せたまま、しみじみとつぶやく鴆に、地を這うような声が応じた。 「だから無理だっつったんだろ。意地張りやがって」 きっかけは、総大将が祝言の後、花嫁を抱き上げて百鬼夜行をしたという話からだった。 上に乗っていたリクオがどいても、鴆は畳に転がったまま、情けねぇなあ・・・と自分の白い腕を目の前にかざした。 「転んでピーピー泣いていたおめーを背負って山を降りたこともあるってのに…」 そう、子供の頃は、何かと後についてくるリクオを、自分が守ってやるんだと思っていた。 鴆の顔に影をつくっていたその腕の片方を、優美な形をした手が捕らえた。 リクオは自分のものよりも大きい、男のものではあるけれど滑らかな手を引き寄せると、 「てめぇのこれは怪我や病気を癒す手だ。この手で奴良組を支えてくれてるんだろ。 どちらからともなく顔を近づけ、唇を重ねた。 「んっ…」 鼻からぬけるような甘い声が、リクオの唇から洩れた。 「…鴆…?」 鼓動が高まり、息が上がるくらい口づけを交わしてなお、鴆が全く動こうとしないのを不審に思って唇を離すと、鴆はどこか情けない表情でリクオを見上げていた。 「…腰が…」 「ん?」 「腰が痛ぇ…」 自分より重いリクオを無理に抱え上げようとしたことによる、ぎっくり腰だった。 |
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