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突如闇に閉ざされた洞内に絶叫が響き渡る――

 

「ヒッ」

倉庫に備品を取りに来た信者は、松明をとりおとしてその場にへたりこんだ。
目の前ではピチャン、ピチャン、と雫が滴り落ちる音が一定のリズムで聞こえてくる。
男はこの音が気になって倉庫より奥まったこの場所に足を踏み入れたのだった。

洞窟なので、水音がするのはそうおかしいことではない。
だが岩盤で全ての出口を塞がれてしまった今、彼らはすべてのことに神経質に
なっていた。もし水漏れがひどいようなら直ちに補修しなければならない。
外に出られない今、備品が水浸しになっては大変だ。

だが男は今、よけいな気をまわして見に来たことを後悔していた。
男の目の前に滴り落ち、水溜りをつくっているもの――いや、それは水ではなかった。

ランプを吊るすために天井に打ち込まれた鉤に、人間が吊るされていた。

修行の妨げになるとして、それまで信者から金品を巻き上げていた司祭だった。
目をかっと見開き、口をだらしなくあけたままこときれている。
滴っているのは、彼の目や口、そして足元から流れる、血だった。

 

 

 

暗闇に近づいてはいけない。
出口が閉ざされてから信者達は闇を恐れるようになった。
そもそもあの轟音とそれに続く出来事自体、祟りだと恐れる者もいた。
事実、あの時以来なのだ。彼らを取りまとめる司祭たちをはじめとして、暗闇に近づいた
人間がつぎつぎと姿を消すようになったのは。

最初は姿を消すのみだったが、そのうち洞内のあちこちに、みせしめのように晒されている
死体が、あちこちの暗がりに発見された。

(ジンだ)
(ジンの仕業だ)
(あんな恐ろしいこと、人間にできるはずがない)

閉じ込められ、ただでさえ張り詰めていた信者たちの心は、一気に恐慌状態に陥った。
一箇所に固まったまま、明かりのある場所から一歩も動こうとしないもの、
食事もとらずに一心に祈りを捧げるもの、さらに血まみれの死者がこちらに向かって歩いて
くるのを見たと言い出すものまで増え出した。

不安は伝染する。司祭たちはここから出してくれとつめよる信者達をなだめるが、
狙われているのは主に自分たちだ。これは皆の信仰の固さを試すために紅眼様が
与えたもうた試練だ、一心に祈れば必ず聞き届けてくださるといいながら、彼らの
顔色は冴えなかった。

そしてまた一人。
悪魔の黒い手が彼を暗闇に引きずり込む――

 

 

 

「奴は今どこにいる」

昼夜、ぐつぐつと煮え続ける瓶のなかの赤い液体を眺めながら、赤い髪の男が尋ねた。
背後には灰色のフードを被った青年がひっそりと従う。

「騒ぎは第3層にまで及んでおります」

暗にいつまでこのままにしておくつもりなのか、とひかえめに問う声に、シバはくっと
喉の奥を震わせた。

「自ら袋のネズミになったかとおもえば、見事に注意を逸らしたものだ。司祭たちを殺し、
信者どもには幻覚を見せる――なかなか生きのいい獲物よ」

ひとしきりくっくっと笑うと、シバはマントをひるがえして青年を振り返った。

「よい。司祭などいくらでも替えがきく。その者がどこまで来れるか、とくと見てやろう」

教主の言葉に、青年は黙って頭を下げた。

 

 

つづく
アサシン部屋

 


次回、ブラック高耶さん登場。