19

 

 

懐かしい道を辿っていた。
もう十年以上近寄らない場所だった。買い物袋を下げ、家の前に見覚えのある車を見つけて
幼い高耶の足が早くなる。

ドウンッ!

地面を揺るがす爆音と共に、家が吹っ飛ぶ。高耶は駆け寄った。
家があった場所には血まみれの父と母と、妹が倒れていた。

――父さん!母さん!美弥!!

無我夢中でかけより、妹を抱き上げる。だがすでにこときれている小さな身体は
うち捨てられた人形のようにだらりとなってもはやうごかない。

――いやだ・・・ぁぁ・・・ッ

おいていかないでくれ。オレを一人にしないでくれと泣きながら懇願した。
時を戻せるなら。彼らを死なせずにすむのなら、オレは何でもする。
もうたくさんだ、こんな想いは。
もう、ひとりは嫌だ――

――おにいちゃんが殺したんだよ。

見ると、腕の中の美弥が目を開いて、高耶を見ていた。
真紅の瞳が高耶を凝視する。

――おにいちゃんが美弥たちを殺したんだよ。このひとたちも、みんな。

いつのまにか、高耶のまわりにはたくさんの死体が転がっていた。

――人殺し!

10歳だった美弥が血まみれのまま、由比子の姿になって断罪する。
周りの死体も赤い目を見開き、非難の色を浮かべて高耶を見る。

赤い瞳は高耶の眼前に広がり、やがて高耶を飲み込もうとしていた。

 

 

 

「・・・ッ」

爪が剥がれる痛みに正気に戻った。無意識に拳を握り締めていたらしい。
どうやら いつのまにかトリップしていたようだ。あやうく意識をもっていかれるところだった。
高耶は拘束着を着せられ、起き上がっても頭がつかえるほどの狭い岩の牢に転がされていた。
入り口は鉄の扉で、当然錠がかかっている。古風な牢の前に、見張りが立っていた。

ある程度の薬には慣れている高耶だったが、この薬はやはり、ただの麻薬ではない。
被験者に見せるものは悪夢だけ。それはおそらく、シバの「暗示」を成し遂げた後も
ずっと続く。

家族を失ったあの時。高耶が戻ったときにはすでに爆破された後だったし、家族の死体も
見ていない。あれは薬がねじまげて見せた幻影だ。

そして今も、目の前で、大きな赤い目が、じっと高耶を凝視している。

(まだ死ねない)

かっと見開いた目に力を込める。伸びた爪を別の指の腹にかけ、思い切り引いた。

「ァ――ッ」

メリッと音を立てて、爪が剥がれる。脳天を突き抜ける痛みと共に、思考がクリアになった。
こんなところで負けるわけにはいかない。 オレにはまだ、やることがある。

再び悪夢に引きずり込まれそうになる意識を保つために、むき出しになった肉に爪を立てた。


つづく
アサシン部屋

 


直江、愛されてないなあ・・・(^^;)