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鋭い剣戟の音と共に火花が散った。

何が起こったのか、考える間もなかった。間髪入れずに打ち込んでくる剣から身を守るのに精一杯だった。
敏捷さはもとから優れていたが、今は一瞬の隙も見逃さない気迫があった。しかもそれだけではない。
力では高耶に勝るはずの直江が、押されている。剣を交える度に手のひらにジンと重い痺れが伝わった。

いつもの高耶の戦い方ではなかった。生に無頓着ではあったが、大胆に切り込んでいっても
自分を守る術は心得ていたし、自分より体格の勝る相手に力まかせにぶつかることもなかった。
速攻で決める時でも、相手より先に体力を使い果たさないように計算しながら戦っていた。

だが今の高耶は身を守ることも、力をセーブすることも考えてはいない。目の一ミリ先を切っ先が掠めても
瞬きもしない。 柄を握る手からは鮮血があふれていたが、まるで痛みを感じていないかのように向かってくる。

「高耶さん!」

重い一撃を受け止めながら直江は叫ぶ。だが高耶は無言で次の刃を繰り出す。
手負いの獣と同じだ。直江が直江に見えているのかどうかもわからない。
ただ直江に向けられたすさまじい殺気だけは本物だった。ただの威嚇ではない。
高耶は本気で直江を殺そうとしていた。

彼と初めて剣を交えた時のことを思い出す。あの時もお互い本気で殺そうとしていた。
何も変わってやしない。初めて会ったときから、何も変わりはしなかった。

――結局、自分達はこうなるより他に、道はないのかもしれない。

喉を突くべく繰り出された刃を高い金属音と共に跳ね除けた。続く渾身の一振りで
高耶の右手にある長剣を叩き落す。

そして、深淵そのもののような黒い双眸をまともに見つめた瞬間――

 

 

 

動きが完全に止まったのは、ほんの一瞬だった。

直江は目を見開いたまま、しばらく動かなかった。驚いたような表情が、しばらくしてふっと緩む。
震える手を懐にいる高耶の背にまわすと、その体温を確かめるように抱きしめた。

抱き込まれた時、覚えのある匂いが高耶を包んだ。左手を濡らす、男の血の感触に高耶の目が
大きく見開かれる。
高耶が未だ柄を握ったままの短刀は、直江の脇腹に深々と突き刺さっていた。

 

「な・・・お・・・」
「――・・・やっと会えた・・・」

高耶さん、と言い終える前にグラリと上体が傾ぐ。完全に力を失ってもたれかかる直江を支えきれず、
高耶もその場に崩れ落ちる。

「ァ・・・――ア・・・」

遠くで誰かが何かを叫んでいる。ばたばたとこちらにやってくる複数の足音を聞きながら、高耶は
直江の腕に抱かれたまま、小刻みに震え出した――

 

つづく
アサシン部屋

 


短い上に、あんまりな続き方;