25
目を覚ました時、最初に視界に入ったのは見慣れない部屋の天井と、見慣れた老臣の 「あなたはッ・・・会議でおとなしく座っていることもできないんですかッ」 開口一番、いっそう皺の増えた顔を涙で濡らしながらなじるウマルに、直江は返す言葉がなかった。 「すまない・・・」 よほど心配したのだろう。堰をきったように泣き続ける老臣の小さな肩に、点滴の管や血圧計の
そこはジェッダの病院の特別室だった。最初近くの病院で処置を受け、容態が落ち着いてから 「あのひとは・・・私と一緒にいた彼はどうした」 一番の気がかりを口にすると、ウマルはあからさまに不快げな表情になった。 「聞いてどうするつもりです」 断固とした直江の口調に、ウマルはため息をついた。 「・・・別の病棟に監禁してますよ。その場で殺されて当然なのに、陛下がわがままをおっしゃるから」 わがまま?直江は眉をひそめた。何しろ刺されたところから全く記憶がないのだ。 「覚えてらっしゃらないんですか。兵士たちが見つけたとき、彼は殺すな、殺さないでくれと そうか、と直江はひとつ息をつくと、ゆっくりと上体を起こした。とたんにズキリ、と脇腹が痛む。 「彼に会いたい」
さんざん心配をかけた老臣を思いやってしばらくおとなしくしていようという殊勝な心がけは、 「ここは・・・」 直江がいた、日当たりのよい病室とは大違いの、敷地の北側に位置する病棟だ。 「ここです」 傷が開かないようにゆっくりとした直江の歩調にあわせて先を歩いていた医者が、 「中に入れてくれないか」 医者は言葉を濁した。 「今はやっと眠ったようですが、鎮静剤が効かないんです。拘束着を着せても脱いでしまうし、 暴れ方が半端でないのでほとほと手を焼いているらしい。それでもと食い下がる直江に、 簡素なパイプベッドには、変わり果てた高耶の姿があった。舌を噛まないように猿轡を噛まされたまま、 「治るのか」 おそらく情報部はこの麻薬のことを知っているだろう。 刺された時、高耶の自分に対する憎悪の深さを今さらのように思い知った。 愛よりも深い憎悪。それこそ直江が望んでいたものだったはずだ。刺し違えるほどの 直江は昏々と眠る高耶をじっと見つめ、誰にともなく告げた。 「連れて帰る」 ぎょっと目を剥くウマルに、直江はさらに承諾しかねることを口にした。 「それと――あの部屋を使えるようにしておいてくれ」
|
拷問部屋・・・?いやいや(笑)。