The Terrorist
イギリスの西に位置するアイルランド共和国は1937年に独立を宣言したが、
イギリスからの移民が多く、プロテスタント系住民が7割を占めるアルスター
地方の6州は独立を拒否、1949年に完全独立した後も北アイルランドとして
イギリス領にとどまった。1970年にIRA(アイルランド共和国軍)は、
アイルランドの統合をめざすカトリック系過激派テロ組織として独立。
北アイルランドやイギリスに対し、過激なテロ活動を行っていた――
『知っての通り、最近とみに活動は激化している。そのいくつかは一般人を
巻き込む無差別テロで、事件の度に死傷者を出している。アイルランド政府も
手を焼いているが、組織には政治家が関わっているから容易に手が出せない。
だがテロ事件を無差別に、一般人をを巻き込む形で指示しているのはこの
男だ――ジョージ・マグゴーマン。もとからIRAにいた男ではない。強盗、
麻薬、殺人…前科は何でもありの残虐な男だ。
そして・・・残念ながら我が情報部にも裏切り者がいる。今までのいくつかの
事件で我が軍は遅れをとったが、それは我々の情報を事前に漏らしていた
者の存在による。
・・・今回は少しつらい仕事になるかもしれない。きみの任務はきみ自身が
『裏切り者』としてマグゴーマンに近づき、裏切り者をおびきよせること。
本拠地を突き止めてそこを破壊すること、そしてマグゴーマンと裏切り者の
処刑だ。
いつも言っているが、この件で君がいかなる事態に陥ろうと当組織は一切
関知しない。成功を祈る。 』
ダブリン空港で車を借りて20分。どんよりと曇った空の下の街並みが見え
てくる。街の中心を流れるリフィ川沿いからオコンネル通りに入ると間もなく
指定されたホテルが見えて来た。19世紀に造られた、6階建ての建物は
華美ではないが上品な老婦人を思わせる落ちついた品の良さが内装に
うかがわれた。
リザーブされていた部屋は最上階だった。エレベーターもあったが階段を
使う。鍵を開けて中に入ると、手入れの行き届いた、居心地よく年季の入った
調度が高耶を迎えた。なかなか広く、部屋数も多い。窓からは大通りの
街並みが見える。向かいにはここよりも古そうなホテルが建っていた。
高耶は入り口にそれほど多くはない荷物を置くと――懐から銃を抜いた。
息を殺し、神経を研ぎ澄ませ――それでも「普通に」ドアをあけて歩き回る。
さも着いたばかりで部屋を検分しているように。居間や寝室、書き物部屋と
回り、慎重にクローゼットを空ける。一年分の衣類が掛けられそうなそこには、
しかしだれもいなかった。残りはバスルームか。ドアをあけると脱衣所と
ぴかぴかに磨きぬかれた洗面台がある。曇りガラスの衝立の向こうに
バスタブがあった。クリーム色のシャワーカーテンがバスタブを隠すように
閉められている。
高耶は全身を神経にしてカーテンに近づき――思いきり引いた。
「!」
空の浴槽を目にするかしないかのうちに、後頭部に衝撃が走った。
振り向きざまに銃を持った手で張りとばす。揉みあいになった。
だが相手の体格と技量を見ぬいた高耶は隙だらけの体に猛然と
拳と蹴りを入れ続けた。何発かやられたがそのことがいっそう
高耶の闘争心に火をつける。相手は高耶よりは大きかったが
頑健というほどの身体つきではない。加えて敏捷さではとても
高耶の相手にはならなかった。
「がは…ッ」
床に転がった相手の胸をあばらが軋むほどに膝で押さえ付け、
喉もとに銀色のベレッタをつきつけた。いかにも三下といった風の
男は目を白黒させて高耶をみている――いや、みようとしているが
顎を銃口で押し上げられてみることすらできない。
「誰に雇われた」
低い声で高耶は尋ねた。男は答えない。銃口が喉にめりこんだ。
「ぐ・・・めてくれ・・・っ」
顔を紫色に染めてわめく男に、高耶はふいに銃をひいた。
口を割らせるまでもない。おそらく「協力者」によって、こちらの計画は
全部筒抜けになっているということだ。
高耶は薄く笑うと震えている男に言った。
「ボスに伝えておけ。オレは雑魚は相手にしない。オレを試したいなら
自分で来いとな 」
ぐずぐずしている男を軽く蹴飛ばすと、男はあたふたと逃げていった。
ドアが閉まり、今度こそ誰もいなくなると高耶は無造作に上着を
脱ぎ捨てる。バスタブの蛇口を勢いよく捻って湯をためる。
ダブリン滞在の初日は、こうして至極手荒い歓迎で始まった。
<つづく>
<アサシン部屋へ>
はい、題名変えマシたvvvだって呼びにくいし〜;;;
なんか前作と全然ちがうような(びくびく)。しかもまたシュミに
走りまくってますねvvv
次回、直江登場です(^_^)