The Terrorist

24

 

<自動爆破装置発動。構内に残っている者は速やかに避難してください。
爆破まで あと 4分…>

ここまで来るのに辿った道のりを考えると、5分という時間はどう考えても
退避するのに十分な時間とは言いがたい。マグゴーマンはこの基地を
爆破する時に、ここで働いている人間共々「証拠隠滅」するつもりだったに
違いない。

もと来た道を駆け抜けながら、外へと通じる場所を捜した。あのエレベータ
のある倉庫までだと間に合わないかもしれない。しかし悠長に捜している
暇もなく、長い廊下をひた走った。来た時の記憶を頼りにいくつめかの
迷路のような曲がり角をも曲がった時――

「!」

行く手は厚い金属の壁に阻まれていた。

<あと 2分 30秒>

高耶は素早く辺りを見まわした。左手のドアは鍵がかかっていて
開かない。あとそこにあるのは内開きの金属の蓋がついたダスト
シュートだけだ。中は暗くて見通すことができない。

(もしどこにも通じていなかったら)

だがもう引き返している時間はない。高耶は右腕で蓋を支えながら
その中に滑り込んだ。

「…ッ」

左肩が入り口にあたり、激痛がはしったが、そんなことに構っている
場合ではない。歯を食いしばって全身を滑り込ませると、急な
スロープが高耶を下へと滑り落としていった。

スロープは延々と下へと続いている。警報の音も、秒読みの音声も
もはや聞えなかった。あるのは奇妙な浮遊感と、服が金属に擦れる
音だけ。このままどこかへ辿りつく前に木っ端微塵かもな、などと
考えた矢先、唐突に身体が宙に放りだされた。紙の山のような
ところに尻から着地した時、ズズ…と建物が揺れた。

遠くから爆発音が聞えてくる。それも一つではない。おそらく高耶の
来た方向から連続して、確実にこちらへと近づいている。頑丈なはずの
鉄筋の建物が、耐えがたいように小刻みに震えていた。

ゴミが蓄積された吹き抜けのようなその一角に、錆びたぼろぼろの
鉄の梯子が掛かっていた。それははるか上まで続いていて、一番
上には小さな入り口のようなものがある。

高耶は懐から特殊ロープを取り出すと梯子の一番上にそれを引っ掛け、
おそらく長い間使われていないだろうこのボロボロの梯子が外れないように
祈りながら、右手と両足を使って慎重に、しかし急いで上っていった。
足を掛ける度、そして爆発の振動が伝わるたびに、錆びだらけの
梯子は不安げにぎしぎしと音を立てる。

半分ほど上った時、足をかけた途端に下の梯子が外れ、高耶は咄嗟に
ロープにしがみついた。今まで足場となっていたものが、音もなく底へと
落下していく。

高耶の額を冷汗が伝った。それでも宙に浮いていた両足をまだかろうじて
繋がっている段の上に乗せると、激しく振動しはじめた建物に
追い立てられるようにひたすら上り続けた。

ようやく通風孔のようなところに辿りついた。へたりこみそうになる両足を
叱咤して、左肩をかばいながらひたすら進む。

つき当たったドアを最後の弾丸で壊すと、突然視界が開けた。
あの庭だ。

その時、すぐ背後で爆音が轟いた。
まさに外に這い出した瞬間にひしゃげた穴にはもはや目もくれず、高耶を
追ってくる爆音と熱風から少しでも遠く離れようと庭をひた走った。砂塵や
石つぶてが背中にびしびしと当たってくる。高耶の頬をかすめて瓦礫が
飛んでいった。今や基地と、屋敷全体を無に帰そうとする爆風は、高耶の
足よりも速く、高耶を巻き込もうとしていた。

「高耶さん!」

耳がおかしくなるような爆発音の中で、誰かの声を聞いた。
もうだめだとおもう寸前、背後から何かが覆い被さってきた。
地面に引き倒され、頭から抱き込まれて爆音が遠くなる。
しかしそれが誰かを確認する間もなく、左肩に走った衝撃に
高耶の意識は闇に吸いこまれていった――

 

最終話へ

アサシン部屋へ


ま、またも話すっとばしているかしら…(汗)
まあとにかくこれにて任務完了。高耶さんおつかれさま〜。
次はやっとやっとの最終話です♪