The Terrorist
6
全身の力が抜け、そのままずる…と床にくずおれそうになった身体を
直江が片腕で支えた。もう一方の手で一部無残な端切れと化した
衣服を拾うと、高耶を抱き抱えて廊下を進んだ。迷わず高耶の部屋の
前に辿りつくと、高耶の上着のポケットから鍵を取り出す。あまりの
手際のよさに抗議する気も起きないのか、高耶はおとなしく直江の
腕の中に収まっていた。
だが部屋に入るとさすがにいつまでも横抱きにされているのは抵抗が
あるのか、
「・・・降ろしてくれないか」
ちいさく呟いた。
「まだ足に力が入らないでしょう。無理しない方がいい」
「そんなにヤワじゃない。降ろしてくれ」
言葉とは裏腹に力のない口調に苦笑しながら、直江は高耶を降ろして
やる。
倒れかかってもすぐに支えられるように肩に回していた腕が不意に
軽くなった。
「グ・・・ッ」
ひゅっと風を切る音を聞く余裕もなかった。咄嗟に後ろに顎を反ら
さなければ、一撃必殺の蹴りに砕かれていたかもしれなかった。
それでも速すぎる攻撃は完全にはかわし切れず、直江は顎と脇腹
に蹴りを入れられ、 後方にふっ飛ばされた。
仰向けに倒れた直江の喉仏に銃を突き付けられる。降ろされる時に
直江の懐から抜いた銃だった。
「・・・あれだけやって、よくそんな元気がありますねぇ」
やはり若さゆえか。銃口をつきつけられていることも知らぬげに、
つくづく感心している直江に高耶は冷たく笑った。
「だから言っただろ。オレはそんなにヤワじゃない」
だがさすがにあれが限界だったようだ。息は荒く、額には脂汗が
滲んでいる。それでも高耶の手には銃が握られている。直江の
コルト・ガバメント。セイフティは奪った瞬間に外している。引き金に
わずかに力を込めれば直江は確実に死ぬ。だが直江はむしろこの
状況を 楽しんでいるようだった。
「積極的なのはうれしいんですけどね…せめてベッドに行きま
せんか?」
「黙れ、この変態野郎」
直江の胸を膝で押さえつけたまま、高耶は嫌悪の表情も露に
吐き捨てた。
「わけのわからないこと言いやがって。何でこんなところにいるのか
知らないが、 オレの前に顔を出したらどうなるかはわかっていた
よな。二度と顔合わせないで済むように今ここで殺してやる」
言うなり、そのまま引き金に力を込めようとした。
「私を殺したらマグゴーマンには近づけませんよ」
高耶は目を見開いた。
喉に銃をつきつけられたまま、直江は薄く笑って高耶を見ている。
「・・・おまえ」
「つなぎが欲しいのでしょう?たしかにグエンダの人脈は強力だ。
だが相手は政界人ではなくテロの指導者ですよ。誰だって表だっては
関わりを持ちたがらない。マグゴーマンに辿りつくまでに3ヶ月は
かかるでしょうね。もしそれまでにあなたが消されていなければの
話ですが」
高耶は黙って相手を睨みつけた。
「私と一緒なら、そんなまどろっこしいことをしなくても彼に会いに
行けますよ。私はビジネスとして、少々彼の荷物を運んであげて
いるのでね 」
その「荷物」がどんなものか、そんなことは今はどうでもよかった。
問題は――
「――何が望みだ」
この男がただで協力を申し出るはずがない。とてつもなく嫌な
予感が高耶を襲った。
案の上、直江の笑みが深くなる。すべての切り札を自分が
握っていると確信しているがゆえの表情だった。
「取引をしませんか、高耶さん」
それはまさしく、悪魔の囁きだった。
<つづく>
<もどる>
あ、えっちがない(爆)でも次があるしなーvvv期待してた方、すんません(^_^;)
直江がどんなえげつない要求を出すのか(笑)次回までおまちを〜。