The Terrorist

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<5〜7話のあらすじ>
妻の浮気を責める夫よろしく、直江に滅茶苦茶攻められた
高耶はふいを突いて形勢逆転するが、直江に「俺を満足
させたらマグゴーマンの屋敷に連れていってあげます」と
もちかけられ、その要求をのんだ。
その後・・・

 

目を覚ますと、外はまだ暗かった。いつのまにかまどろんでいたらしい。
傍らのぬくもりに首をめぐらせると、高耶がこちらに背中をくっつける
ようにして眠っていた。半ば胎児のように丸まって、無防備な寝顔を
向こうに向けていた。

ウバールのあの城で終日彼を責めさいなんでいたあの日々にも、彼は
よくこんな寝顔を見せていた。起きている時の用心深さからは考えられない
無防備な横顔――もっともそんな顔をみせるのは眠っているというよりは
気を失っている時だったが。見る者を圧倒し、あるいは底無し沼に引きこむ
ような両の瞳が閉じられると、彼は本当に普通の年若の青年に見える。
癖なのか、上になっているほうの手で枕の端をにぎりしめている様子が
なんとも微笑ましい。

薄く開いた、やや肉厚の唇から漏れ出る吐息を盗もうと顔を寄せたが、
唇が重なる直前に、喉にちくりと痛みが走り、直江は動きを止めた。

「…起きていたんですか」
「支払いは済ませただろう。さっさと奴のところに案内しろ」

喉仏にナイフをつきつけた高耶は、寝起きとは思えないしっかりした
声で言った。首だけこちらに向けて、真っ直ぐに直江を睨みつけてくる
その表情には、 数刻前までの媚態の名残は微塵もない。あの時の彼
こそが幻だったのではないかと疑う程、「いつもの」高耶だった。そんな
彼に心のどこかで安堵すると共に、得体の知れない苛立ちも湧き
上がってくる。

「呆れましたね。今まで「任務」のために何人の男に足を開いたんです?」

初めて高耶を抱いたとき、高耶はまだ男を知らなかった。あれから一年
だ。昨夜の狂態を思い出して、疑惑と嫉妬に波立つ感情をおさえながら
わざと高耶を煽るように言ってやったが、高耶は小憎らしくせせら笑うだけ
だった。

「おまえが言ったんだろう。グエンダと同じように自分を満足させろと。
だから彼女と同じようにしてやっただろう? 」

直江を嘲笑うその表情は、まるでたちの悪い娼婦だ。だがむしろ、自分を
あの女とまったく同等に扱ったという、その言葉に直江は我を忘れた。
自分でも制御できない衝動のままに高耶の首に手を伸ばす。

「…ッ」

直江は完全に無表情で、高耶の首を掴んだ右手に力を込める。自分の
喉に高耶のナイフが食い込んで血を流していることにも構っていなかった。
高耶は苦悶に顔を歪めたが、突きつけたナイフを取り落とすことも、また
とどめをさすこともしなかった。ただ直江の両の瞳に滾っている激怒の
炎をみて、苦しそうにしながらも微かに笑った。

「こ…れは…、取引・・・だ…そうだろう、直江…?」

高耶の首に掛かった手の上に、真紅の雫がぽたりと落ちた。

 

直江の手が離れた途端、高耶もナイフを取り落として、激しく咳きこみ
始めた。やがてようやく通常の呼吸を取り戻すと、直江はベッドの端に
腰掛けたまま、どこか悄然とした表情で高耶を見つめていた。不思議に
思ってじっと見上げていると、直江は再び表情を消して、こちらに背を
向けて立ち上がり、服を身につけ始めた。

「10時に迎えに来ます。晩餐の後泊まるつもりで支度しておいてください」

後ろを向いたままそう言うと、そのまま高耶を一顧だにせず、部屋から
出ていった。

 

つづく

アサシン部屋へ


あああ〜くりすますまでにおわらないぃ〜〜(>_<)
・・・でもまあ、なんですな。
「 あんたたち、一生やってなさい」って感じ(^_^;)