戦場のHappy Birthday 第七話
07. 21. 00:30 A.M.
「曲者ッ、曲者――!」 侵入者を知らせる声が敷地中に響き渡る中、西門付近では憑依霊たちが次から次へと群がってきた。
霊の一団の中心にいる「侵入者」は、まるで前線の兵士のようだった。ところどころ裂けた
ミリタリースーツを着たその男は、頭の先からブーツの先まで泥まみれだった。乱れた前髪の
隙間からのぞく両眼はぎらぎらと異様な光を放ち、全身からは殺気がほとばしっている。 「《調伏》!」 印を結んだ手から閃光が走る。白い光と共に群がる霊たちは一瞬にして消えていく。だが次の瞬間
には、もっと多くの霊が彼のまわりに集まっていた。 きりなく群がり、集団で攻撃をしかけてくる霊たちをその都度調伏しながら、直江は真っ直ぐに
建物の方へとむかった。 (高耶さん!) 思念波で呼びかけるが返事はない。思念波が届かないところにいるのか、それとも返事を返せない
状況に陥っているのか。不吉な可能性に焦る気持ちを押し殺しながら、霊を蹴散らして破壊した
扉の中へと踏みこんだ。 「――!」 建物の中に入った瞬間、直江は罠にかけられたことを知った。 あれほどつきまとっていた霊たちは直江が建物に入った途端に消えた。中には霊の気配はない。
しかし何よりも顕著だったのは、足を踏み入れた瞬間に、それまで全開で放出していた《力》が
スポンジに吸い取られるように消えてしまったことだった。 ――何度も同じ手にひっかかるなんて、おまえもよくよくの間抜けだな。直江信綱。 明かりの消えた和風旅館風の建物の中で、嘲笑まじりの声が直江の頭に直接響いた。 「!貴様、蘭丸――!」 ――我が殿はおまえにはお会いにならないそうだ。景虎殿は一足先に冥府に旅立ったよ。
おまえも後を追えばいい――もっとも、無事にそこにたどりつけたらの話だけど。 「待て!あの種字は――」 ――さあ?どうせあそこから生きて出ることはないんだから、知る必要ないんじゃない?
…もっともあれは、殿がお遊びでつけられたものだ。目的を果たせば消えるけれどね。