Frenzy Stage 1: 幻覚
3
誰かが髪を梳いている。 高耶の傍らに、西洋人の女が座っていた。シンプルな白のドレスに、 濡れたような黒い瞳は、どこか遠くを見ていた。悲しげな目だった。 視線に気づいたのか、女がこちらを見て微笑した。 女の手が胸元に伸び、はだけたシャツの合わせ目から侵入してきた。 高耶は振り払おうとした。だが身体は金縛りにあったように動かない。 いつしか、女は直江になっていた。唇は笑みの形に裂け、夜叉の顔が現れる。 ズブリ、と男の指が胸に食い込んだ。焼け付く痛みを感じて高耶は掠れた バリバリとむさぼる音が聞こえてくる。 自らが食われる音を聞きながら、高耶は男を見た。
気がつくと、鏡に映ったとおりの光景がそこにあった。 「直江?・・・直江!」 思念派を飛ばしてみたが、応答はない。どうやら自分だけここに引き込まれた 食堂は薄暗かった。ほとんど消えそうに瞬いているシャンデリアにはくもの巣が 白いテーブルクロスをかけた長い食卓の各席には、一本ずつ蝋燭が灯っている。 暖炉のそばに大きな柱時計があった。針は二時をさしたまま止まっている。 食堂に視線を戻すと、テーブルの端に何かが乗っている。 ヴェールを持ち上げた高耶はわずかに目を細めた。 きちんと纏められた髪とヴェールの間は瑞々しい、白い生花で飾られている。 先刻までいた現場で首だけなくなっていた花嫁だった。写真で見た、健康そうな そのとき高耶は、唇の間で何か光るものを見つけた。冷たい口の中に指を入れて 女の伏せられた瞳から、透明なしずくがすべり落ちた。
(やはり鏡か) どうりであそこにしか痕跡が残らないはずだ。だが、あの部屋の鏡には問題はない。 (すさまじい《邪気》だ) 現場には僅かしか残っていなかったものと同じ気が、ここには濃密にたちこめている。 怨霊などという生易しいものではない。おそらく人間であったという自覚もない。 高耶は最初に立っていたところにかかっている鏡を見た。楕円形の、胸から上が 肖像画に気を取られていた高耶は、次の瞬間はっと表情をこわばらせた。 後じさろうとした高耶に向かって、鏡の向こうから手が伸びる。
ひさびさのふれんじ。やっぱりぐろい・・・(爆)。 |