――エッダ、「巫女の予言」
力尽きて、深いまどろみの沼に沈んでいこうとする意識を、何かが阻んだ。
このまま眠りたかった。心地よい眠りの沼の底で、二度と目覚めなくても
かまわなかった。生まれつき病魔に蝕まれた身体だ。目覚めている時は
いつでも苦しい時だった。直接陽にあたることのない身体。毎日眺めている
病室の天井、肉の薄い腕に刺さった太い管、毎日私を診る白衣の人たち、
父母や姉の悲しい表情――
他の人に比べれば、まだそんなに生きてはいないかもしれない。
だけどもう――とても、疲れてしまった。
自分の意志で動かぬこの身体にも、誰かを悲しませることしかできない
自分自身にも。
だからお願い。もう眠らせて。
そう望んでいるのに、眠りを妨げる声は止まない。
――声?
そう、言葉の意味はわからない。経のようにも聞こえる。
だが絶え間なく続くそれは、眠りにつこうとしている魂を明らかに
邪魔していた。
二重になり三重になって聞こえてくる、いつ止むともわからない
低い音の奔流と共に、闇が魂のなかに入り込んでくる。
特定の意志を持った闇は疲れた魂を侵し、喰らい、宿主の悲鳴も
弱々しい抵抗もものともせず、魂全体に闇を取り込み始める。
嫉妬、憎悪、欲望、そして生への凄まじい執着。
宿主を得て膨れ上がった激情は、魂を得体の知れないモノへと変容させる。
生の理を壊すモノ。
人であって人でない、人外のものへと――