倉田家は広尾の閑静な住宅街にあった。
坂の途中に築いた高い土台と高い塀。だが住んでいる人は気さくで、育ちのよさを感じさせる人だった。
勝田吉右衛門の人形について聞きたいというと、快く応じてくれた。
日本庭園を堪能できる応接間に通されると、床の間に市松人形が飾られていた。
勝田吉右衛門の作品だ。間違いない。
人形というよりは内気な女の子がうつむいて座っているような存在感がある。
「義母のものなんですよ」
もっとも、主人が生まれたすぐ後に亡くなったそうですけど、とお茶を出してくれながら夫人は言った。
「この家では、女の子が生まれて十歳になると人形をつくらせる習慣があるそうで…
でもうちは男の子だけだったのでちょっと残念でしたわ」
ころころと笑う三十後半あたりの夫人に、高耶は核心に触れる質問をした。
「ご主人には、お姉さんはいませんでしたか」
夫人は少し考えると、ええとうなずいた。
「そう申しておりましたわ。主人が生まれる前に二人とも亡くなったそうですけど」
「…二人とも?」
「ええ…流行病にでもかかったのでしょうか。あ、もしよろしければ家系図をごらんになります?」
ありがたい申し出だった。そして初代から几帳面に綴られたそれを見て、さらに驚くことになった。
倉田氏には確かに二人の姉がいた。
一人は「初枝」、もう一人は「静枝」
二人とも享年十二歳。
そして生まれた年も同じだった。
(双子…!)
「倉田さん、二人の人形はこの家にありますか?」
高耶の質問に、夫人は首を振った。
「あれば義母のこの人形と一緒にこの家にあるはずですけど…
もしかしたら早くに亡くなったので一緒にお棺に入れたのかもしれませんわね」
二人の娘がいたのであれば、十歳の時に二体つくらせているはず――
だが、店の台帳には、一体の注文しか記されていなかった。
二人が眠っている墓をたずねてもよいかと聞くと、さすがに夫人は怪訝な顔をしたが、
倉田家の墓地を教えてくれた。そしてふとおもいだしたようにつけたす。
「うちはお寺もお墓もこちらにあるのですけれど、総本山は鞍馬寺なんです。
この前も伯母が亡くなったとき、伯母の遺髪と人形の髪を
一房ずつ小さな壺に入れて納めました。」
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東京に住んでて鞍馬寺に遺髪を納めるってできるんだろか。
まま、ふかくはつっこまないでください(こればっかり;)