まさかこんなところで鞍馬寺が係わってくるとはおもわなかった。
だが幸運といえば幸運だ。墓を暴くわけにはいかないが、毛髪が残っていれば本人かどうかを
調べることができる。
三十年前、景虎が拾った少女と一年前に調伏した少女――そして人形は同じ波動を持っていた。
だが今、直江を取り巻いているものは似ているが違う。それがずっと心にひっかかっていたが、
別にもう一人いるというのなら納得がいく。
倉田家を辞したその足で新幹線に乗った。
一刻も無駄にはできない。約三時間後には長いつづら折の階段を上りきり、鞍馬寺の本殿金堂に
着いていた。
地下へと続く階段を下りると、そこは真っ暗闇だった。
ところどころに小さな明かりは灯っているが、気をつけて歩かないとどこかにぶつかってしまいそうだ。
所狭しと棚に並べられたたくさんの壺には檀家の遺髪を入れた壺が収められている。
永劫の眠りにつく人々を、鞍馬の三尊――魔王尊と千手観音、そして毘沙門天が見守っている。
倉田家の遺髪は明かりの届かない、奥まった一角にあった。
寺で借りた燭台をかざして探しているうちに他よりやや小さめの、同じ二つの壷が並んでいるのを
見つけた。
ひとつは「初枝」もうひとつは「静枝」と記してある。
高耶は「初枝」の壺に施してあった封印を切った。
途端、壺の中から風が吹いた。
一喝するとすぐにおとなしくなった。
ここは毘沙門天の霊域だ。霊もそうそう暴れることはできない。
静かになった壺の中にあるものを取り出した。
冷暗所に保管していた為か、三十年たっても未だしっとりした髪の毛。
(違う)
今にもうねりだしそうな怨念をたっぷり含んだ髪。
手の中にあるのは一人の少女の髪だ。
この髪は、一年前に高耶が送った少女のものではない。
そこから感じる波動は・・・
直江を包んでいたものに、よく似ていた。
(どういうことだ)
「静枝」の壺も開けてみた。
そちらは空だった。
同じ年に生まれ、同じ年に死んだ二人の少女。
景虎が拾った少女は、それでは「静枝」の方だったということになる。
だが人形は「初枝」のものだ。
倉田夫人の言うとおりなら、双子の片割れである「静枝」は人形のことだけでなく、
天と地ほどの境遇の差を受けていただろう。
そしてここには人形の髪は一緒に納められていない。
亡くなった双子の母の人形すら置いてある倉田家になく、副葬されたわけでもない。
しかも高耶はあの人形を古寺の潅木の下で見つけたのだ。
だが、これでとにかく直江についているものの手がかりはつかんだ。
しっとりと湿り気を帯びた髪を、高耶はぎゅっとにぎりしめた。
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「ばい!」がでないと困るわ・・・(^^;)