「来いよ、直江」
しっとりと濡れた声が直江を誘惑する。
しどけなく開いた足の間でいやらしく動く手、なめらかな肌の上を這い回るもう片方の手よりも、
厚めの唇から漏れるあえかな嬌声よりも、涙を溜めて直江を糾弾するその瞳が直江の心を揺さぶった。
あの瞳には抗えない。
あくまで服従を強いる裏側で、絶えず慟哭し続けるあの孤独な瞳を前にしたら、もう膝を屈するしかない。
だが今の直江にとって、高耶の誘惑は死の誘惑だった。
(あれは汚してはならないもの)
(この不浄の手で触れてはならないもの)
(もしこの《戒律》を破るくらいなら)
(生きる価値などない)
(死になさい)
加護を受けているはずの毘沙門天の炎が、地獄の業火となって直江を苛む。
あの日以来直江の中に棲みついた《声》が、高耶に一歩近づく度に気が狂いそうな勢いで警告を繰り返す。
耳鳴りがひどくなり、高耶の姿にこちらをじっと見つめる人形の姿が重なった。
「直江」
逡巡する直江をじっと見上げて高耶が呼ぶ。
仰向けに倒れ、ジーンズと下着を足元にひっかけた状態で足を開いていた。前だけの刺激では物足りなく
なったのか、先端が濡れた分身を扱きながら後庭に指を抜き差ししている。
艶かしく腰を揺らめかせながら早く来い、と直江を煽る。
直江は目を閉じた。
恨みのこもった人形の目が、視界いっぱいに広がる。
(彼を穢すくらいなら・・・)
(うるさい――)
たとえ狂い死にしようと、目の前のこの孤独な魂を放っておくことなどできない。
以前の景虎だったなら、見守るだけの優しい愛情をきっと求めたかもしれない。
今の直江を歓迎したかもしれない。
だが二人の関係はあの時とは違う。景虎も、そして直江も変わった。
一度深く交わってしまえば、もう後戻りなどできない。精神的なクリーンな関係では二人とも満たされない。
(俺たちは生きているんだ)
頭の中でヒステリックに喚きたてる《声》を無視して高耶に覆いかぶさった。
直江の指先に敏感に反応する、吸いつくような肌の感触が電流のように背筋をはしった。
「あ――なお・・・ッ」
喘ぐ高耶に文字通り貪りついた。
荒々しく肌をまさぐり、ペニスを咥えこみ、舌で扱きたてる。
あっという間に迸った甘露を喉を鳴らして一滴残らず飲み干し、身体を返して獣の体勢を取らせた。
余裕などどこにもなかった。
「ア――アアアッ!」
熱く蠢く内部に、硬く猛った肉棒を一気に突き入れ、激しく揺さぶった。
高耶は地面に片頬を押しつけながら感じ入った声をあげ続ける。
今、自分たちは誰よりも深く繋がっている。
たとえ神聖を穢した代償が死の報いであっても――
それはなんと甘美な罪の果実なのだろう。
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嗚呼・・・ティッシュよりぺらい直江の理性・・・