雲ひとつない晴天。絶好の野球日和。
全力を出し切れずに試合に負けた。それは確かに悔しい。
胸が痛くて、つらくて、寂しくて。耐えられないと思ったとき、阿部はぽかりと目を開けた。 (夢) 窓から差し込んだ月明かりが、自分のではない部屋の中を青白く照らしている。 頬をこすると、涙が手の甲についた。寝ながら泣いてたのか、かっこわりぃ。 まさか見られてないよな、とそっと隣をうかがうと、隣の塊は同じ布団の中で阿部に寄り添ったまま、微動だにしない。 ベッドがあるのにわざわざ床に布団をしいて、しかも阿部のための客用布団にわざわざ二人で寝ているのは、ベッドに二人だと三橋が落ちるからだ。最初から下で寝ていれば、少なくとも寝ている最中まで三橋の寝相の心配をしなくて済む。それ以前に、素直にそれぞれの布団で寝れば済む話なのだが、それを言い出すと三橋はこの世の終わりのような悲壮な顔をして「あべく・・・オレのこと・・・きらっ・・・」と涙を浮かべるのでやめた。普段はただ名前を呼ぶだけでもビクつくくせに、なぜ泊まりの時には一緒の布団で寝たがるのか、三橋の考えていることは本当によくわからない。 けれど、三橋とこうして身を寄せ合って眠るのは、それほど悪くない。言葉は通じないし、何か言おうとすればキョドられるし、イライラすることはいっぱいあるけれど、今ここでこうしているということは、三橋からも阿部に近づこうとしているということだ。阿部だけの一方通行ではないということだ。 ――阿部君が捕ってくれなかったら、オレは・・・また役に立たない投手に、なっちゃう・・・ 阿部が捕れば自分はいい投手でいられる、阿部じゃなきゃ嫌だと、全身で自分を必要としてくれる。あの頃の自分が求めていた、いやそれ以上のものを、三橋は阿部に与えてくれる。 布団をかけなおした時に、こちらを向いている肩に触れると、塊がひくんと動いた。 (やべ、起こしたか) 思わず肩から手を浮かせて顔を覗き込み――阿部は驚いた。 「み・・・」 いや、眠りながら泣いていた。小さく鼻をすすりながら、さっきの阿部のように、両頬を涙でぬらしていた。 みんなと野球できてうれしい、と三橋は言った。 そんなお前が、なんでオレの隣で泣いているんだ。 阿部は体温を確かめるように背に回した腕に力を込めると、閉ざされたまぶたからとめどなく流れ落ちる涙に唇を押し当てた。 こぼれ落ちるものがなくなった三橋の顔をしばらく眺めた後、阿部はそっと、薄く開いた唇に自分の唇で触れた。 「おやすみ」 小声でそう言って、仰向けに体勢を戻そうとしたら、三橋の手に阻まれた。
無自覚です。←言い張る
「あと、もう少し」 「反省してる」 |