アオイホノオ
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「越前、今度の日曜だけど7時に迎えに行くから」
部活後の部室。着替えでばたばたして誰も聞いていないような、 「ねーオチビってさぁ、ほんとに桃のことアイシテルのー?」 声を潜めるでもなく、出し抜けに飛ばされた菊丸の質問に一瞬しん、と 天真爛漫、思ったことは何でも口にする菊丸を止めることのできる 「だっておまえら全然恋人同士って雰囲気じゃないもん。二人でいても 困ったように声をかける桃城にきっと振り向いて菊丸は続ける。 「桃だってさ、もっと恋人らしくしたいとか思ってるでしょ?」 言いよどむ桃城の後ろで、フンと鼻を鳴らす音がした。 (うっ・・・) 一年坊主のくせに何、この威圧感。いつもなら「なまいきーっ」と リョーマは一瞬で怯んだ菊丸を冷たい目で見ると、ばかにしたようにせせらわらった。 「じゃあ何か、菊丸先輩みたいに所かまわずべたべたしなきゃ 鋭く斬りつけられて菊丸はその場に立ち尽くす。 「たとえ先輩の目にどう映ろうと、桃先輩が選んだのはオレだから」 菊丸の顔をひたと見つめたまま、つきつけるつけるようにそう言うと、 後には固まったまま呆然とする菊丸と、一部始終を聞いていた不二が 「な、なんだよあれ・・・俺あいつを怒らせるようなこと言った?」 俺はただ、オチビがもっと素直になれば二人とも幸せに 菊丸は普段かわいがっている後輩のおもわぬ反撃に泣きそうになっている。 「怒らせるっていうかね・・・うーん」 蒼い炎は熱い、ってことかな。 「まあ、後は桃にまかせておけば?
「おい待てって!」 部室から校門に向かう途中で、半そでからすらりと伸びる細い腕を掴んだ。 「何カリカリしてんだよ。英二先輩にありゃねーだろ」 確かにおせっかいかもしれねーけど、俺たちのこと心配してくれてんだから。 「・・・菊丸先輩の肩もつんだ」 意味がわからず聞き返す桃城をよそに、リョーマは腕にぐっと力をこめると、 「なら菊丸先輩みたいに素直に甘えてくれるひとのところに行ったら? こちらに背を向けたままそう言って、行こうとする腕を再び掴んだ。 「離せッ・・・」 暴れる身体を引き寄せて抱きしめた。胸に押しつけている顔が今どんな 「何でそこで英二先輩が出てくるのかわかんねーけどな、」 小刻みに震える背中をあやすようにぽんぽんとたたいて、桃城はため息混じりに 「おまえが言ったんだろ。周りがどう思おうと、俺が選んだのはおまえだって」 それにちゃんとわかってる。今度の日曜日のことだって、実はすごく楽しみにしているんだとか。 だが、つきあっていてもわからない部分というのはやはりあるらしい。 「だったら、信じさせてよ」 桃城の背中のシャツを皺になるほどぐっと握り締めて、リョーマは顔を上げて あんたの心にいるのはオレだけだって。欲しいのはオレだけだって。 喉元につきつけるような言葉と視線に、桃城も真顔になる。 「――その言葉、後悔すんなよ」 肩を抱く手に、ぐっと力がこもった。
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