なんでこんなことになったのかさっぱりわからない。
だれもいないとおもった部室で越前と大石副部長がアレコレしていると
誤解してめちゃめちゃ腹が立って。誤解だとわかったあとも、もやもやは
消えなくて。付き合いはじめて一ヶ月たつのに未だに「無関心」な越前の
態度と、先に進めない焦りなんかも手伝って、とうとう越前にそれを
ぶつけてしまった。
その俺が何で今越前の部屋のベッドに寝そべっているんだ??
しかもいつのまにか越前家に泊まることになり。風呂上りに夕食まで
ごちそうになって。
越前はうつぶせになった俺の背中の上に馬乗りになって、副部長直伝の
指圧術を披露している。骨の位置からポイントを探っているところを見ると、
ただ横着していたわけじゃないようだ。
・・・しかし独占欲って言葉の意味、ほんとにわかってんのかね、こいつは。
まさか、俺が自分もマッサージしてもらいたくて怒ってたなんて
おもってねーだろうな。
確かにこいつとこうしていられるのは悪くないが、普段横着なこいつが
気まぐれとはいえマッサージなんてしてくれるのも嬉しいが、
だけど正直言って越前としたいのはこんなことじゃ・・・。
「ねぇ、寝てるの?」
頭上から尖った声が降ってくる。ぐるぐると考え事をしていて
だんまりだったのがいけなかったらしい。
「気持ちいいなら気持ちいいって言ってよ。どこがいいのかわからないじゃん」
「気持ちいいぜ。う〜ん、もっと強く押してくれるともっといいけどな」
さっきから思っていたことだった。押してくれる場所はいいのだが、いかんせん
力が弱くてやや物足りない。
それを聞いて指圧の力にやや力がこもった。
「・・・こう?」
「もっと」
細い指が精一杯押してくれるが、おそらくこれが限界なのだろう。
「おまえもっと力つけなきゃなー」
俺と張るくらい食べんのにぜんぜん大きくならねーのな、と冗談めかして言うと
案の定むっとした空気が背中に伝わった。
「桃先輩こそ身体カチカチじゃん。もう老化はじまってるんじゃないの?」
「んだとコラ」
軽口をたたきながらも、越前の呼吸は少し荒くなっている。「力いっぱい」
指圧し続けているから疲れるのだろう。それでも負けず嫌いのこいつは
きっと俺がもういいというまでやめないだろう。
いいかげん開放してやろうとおもいつつ、背後から聞こえる乱れた呼吸に
馬乗りになっている越前の体勢を思い描いた。せっかく風呂に入った身体は
きっとまた汗をかいているだろう。肌はうっすら上気して、細い首筋とか
半ズボンからのぞく足から汗が伝っているかもしれない。何より、自分の
身体の上で揺れている細い肢体を想像した途端、下肢に覚えのある電流が走った。
好きな奴と二人きりで、しかもこんなに密着して。
そう、何も感じないほうがおかしい。
俺は右手を回すと、越前の腕を掴むと、強く引いた。
突然の行動にバランスを崩した越前が横に転がると同時に、先刻まで
俺の上に乗っていた小さな身体を組み敷いた。越前は腕を引かれた時こそ
息を飲んだものの、暴れるわけでもなく、じっと俺をみあげている。
「越前・・・」
自分の声が欲望にかすれているのがわかった。けど、もう我慢できそうに
ない。許しを請うようにキスを落とす。だがそれは最初だけで、すぐに相手を
貪り、追い上げるためのものに変わった。途中で抵抗しだした手を押さえつけ、
首筋を強く吸い上げる。
「先輩・・・ッ、オレ汗かいてるっ・・・」
シャワーくらい浴びさせろと目で訴える越前を無視してTシャツの裾から
手をもぐりこませる。これ以上待つ余裕なんて、ない。
「気にしない」
「オレが嫌なのッ」
「どうせ汗かくだろ、これから」
口をつぐんでしまった越前の顔を、真上からみつめた。こいつに対して
今しようとしているのは正しいことでも綺麗なことでもないけれど、
こいつに対する気持ちは限りなく真剣だった。
「俺、これでも待ったんだぜ。おまえの気持ちが俺のに近づくまで我慢する
つもりだったよ。けど・・・おまえは一緒にいるだけで十分かもしれないけど、
俺はそうじゃない。キスだってもっとしたいし・・・その、セックスだってしたい。
俺とそういうことするの・・・嫌か?」
正直言って、嫌と言われても止める自身はなかったけれど。でも身体が
欲望にはやる以上に越前の答えが知りたかった。好きだという俺の言葉に
流されるようにつきあいはじめた越前の本心を。
この一ヶ月、ずっと心にひっかかっていたことだ。だけど、ストレートに聞くのが
怖くて。聞いて、もし「別に」なんて返されたら。
越前の手がすっと伸びてきて、俺の頬に触れた。小さな手のひらからぬくもりが
伝わってくる。
「馬鹿だね、先輩」
あんまりな言葉は、だがどこか優しさを含んでいた。
越前はまっすぐに俺を見上げて小さく微笑んだ。
その何の飾り気もない素の表情に、俺の目は釘付けになる。
「嫌だったらつきあうわけないでしょ」
幻聴かと思った。だってこいつはいつも無表情で。キスして好きだって言っても
いつも素通りしていく感じだったから。
確かめるようにキスを落とす。啄ばみながら舌先でつつくと、小さな唇は
あっさりと俺を迎え入れた。
「なあ・・・俺のこと好きって言えよ」
Tシャツの中にもぐりこんだ手の動きを再開しながらかきくどく。今なら、
キスの最中なら言ってくれるかも・・・と期待したが、
「やだ」
くすぐったげに身をよじらせながら濡れた唇の間から漏れたのは、
にべもない拒絶の言葉だった。
「何でだよ。好きなんだろ?」
否定はない。越前は細い両腕で俺の頭を引き寄せると、
「・・・じゃあ、言わせてみれば?」
初めて自分からキスをねだった。
つづく
裏越前屋へ
あれ?やってない(爆)これを裏におく必要はあるのだろうか・・・(汗)
次こそホンバンです(^^;)ラストです;
書いているうちに桃に愛着がわいてきました・・・なぜだらう??
|