二回目の・・・

 

 

上気した頬、わずかに開いた紅い唇。
白い首筋、しっとりと汗ばんだ肌。
細い腕や脚には、未成熟ながらも必要な筋肉がつき、
触れるたびにびくびくと動く。
時間をかけてゆっくりと拓いた身体。
最近やっと指を挿れて感じるようになった。
内部を掻き回すように指を回すと、
セナは無意識に腰を動かして、熱で潤んだ目で進をみあげた。

「あ・・進さ・・・」

もっと欲しいと、大きな瞳が訴える。
一度経験した、セナの内部の感覚をおもいだして、こくりと喉を鳴らした。
熱くて狭い、痛いほど締め付けてくる肉壁に、溶かされてしまうかと思った。
初めての行為は、その後しばらく頭から離れないほど、強烈な体験だった。

その相手が今、ふたたび進のベッドに横たわっている。
甘い息を吐きながら、この先の行為を待っているその媚態に、
進は目の前にしどけなく開かれた細い両脚を抱え、
すでに固く張り詰めている己自身をつきたてようとした。

その時。

階下でガチャリと玄関のドアが開く音がした。続いて、

「清十郎〜帰ってるの〜・・・あら、お友達が来ているのね」

2人の顔が強張った。
それから無言でごそごそと服を着始める。
留守中にあがりこんだ手前、挨拶しないわけにもいかない。
着替えるセナの背中で、ため息がひとつ聞こえた。

 

 

 

たとえ悩みを抱えていようとも、それが表にでることは決してない。
何があろうと、部活中は他のすべてを忘れて部活に打ち込んでいる。
・・・と思っているのは、最近では本人だけだった。

「ぐはっ」

早朝練習でのこと。
普段は味方であるランニングバックが進のスピアをくらってフィールドに沈む。

「げほっ・・・進さん〜味方なんだから少しは手加減してくださいよ〜〜」

恨めしげな猫山の声に、進はじっと自分の手をみつめる。
まだだ。まだ甘い。
こんなスピードでは、彼が相手なら簡単に抜かれてしまう。

『進さん・・・』

進のベッドに横たわる、セナのしどけない姿を、進は意思の力で脳裏から振り払う。
フィールドに私情を持ち込んではいけない。
ここは戦場だ。 小早川もここでは倒すべきライバルだ。
可愛い恋人といえども容赦はしない。

決意も新たにゴキゴキと指を鳴らす進を、気の毒な2人のランニングバックたちは怯えた顔で見上げていた。

 

 

 

「し〜ん。セナ君とケンカでもした?」

始業時間前。
椅子の背を正面に腰掛けた桜庭が、真後ろの席の進に話しかけると、
進の眉根にくっきりとした縦じわができた。

「図星」
「・・・別にケンカなどしていない」

いつもどおりの無表情を装っているものの、明らかに棘を含んだ声に、
桜庭はふうんと首をかしげた。

「じゃあアレだ。かわいいセナ君となかなかエッチできなくて欲求不満とか」

高校最強のラインバッカーと言われても得意な顔ひとつせず、
凡人が到達し得ない領域で黙々と進化を遂げていく、
この小憎らしい友人が、小早川セナに出会ってからというもの、
驚くほど表情のバリエーションが増えた。
それでも仏頂面なのは相変わらずだが、セナ のことになると途端に余裕をなくす。
それを見るのが楽しくて、時折こうしてつついているのだが。

「桜庭。聞きたいことがあるのだが」

この世間知らずの友人をおもしろがってつつきすぎると、必ず後悔するはめになる。
ということを、桜庭は最近わかりはじめてきたのだった。

 

 

 

 

「はぁぁ・・・」

一方、泥門高校でも、ロッカールームでため息をついている人物がひとり。
もう誰もいなくなった部屋で、汗でぐっしょり濡れたTシャツを脱ぎ捨てた。
露になった白い背中や胸には、数日前につけられたキスマークが
未だにくっきりと残っている。朝練が終わるのが始業前ぎりぎりにもかかわらず、
トイレに行くフリをしてあえて皆と着替えなかったのはこのせいだ。

(進さんがつけた印)

一度セナが抗議してから、さすがに目立つところにはつけなくなったものの、
胸や脇腹、肩甲骨の下から背骨のラインまで、つけた人間の執着の程を
みせつけるように赤い痕が散っていた。

この一つ一つを残された時の、ちくんとした痛みと、電流が走ったかのような
快感をおもいだして、セナは身震いした。
おまえが感じる場所すべてに印をつけてやる、と進はいっていた。
脇腹の、進が残した痕を指でたどる。
この痕一つ一つが、セナのイイトコロ、ということだ。

はじめての時は、すごく痛かった。
セナはもちろん、進も必死で。加減する余裕などどこにもなかった。
痛みに臆病な自分が、よく耐えられたものだとおもったけれど、
その後一週間ほどは進を受け入れた感覚が抜けなくて。
痛みと同時になんとも気恥ずかしい、幸せな気持ちが続いたのだった。

あれから何度も肌をかさねたけれど、最後までしたのはあの時だけ。
お互いの部活が終わった後や、家族が家にいる休日の自宅では、
触れ合うにも制限が多すぎる。

(進さんともっとしたい、なんて)

考えただけで顔が熱くなってしまう。
なんだか自分がすごい淫乱みたいだ。
だがなまじ一度したことがあるだけに、欲望はより具体的だ。
自分の中に受け入れた進の熱さや大きさを思い出して、
セナは、勝手に熱を持ちだす自分の身体を、戒めるようにぎゅっと抱きしめた。

 

 

つづく

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