二回目の・・・
2
まだ明るい部屋で密かに睦み合い。
進の匂いのする部屋で、広い胸の内に抱き込まれ、キスの雨を受けて。
「泊まっていかないか」と甘い低音で囁かれたから、何も考えられないままうなずいた。
今までのこと、そしてこれから起こるだろうことを冷静に考えられたなら、
この時はちゃんと断るべきだった、とセナは後悔することになる。
突然の外泊にセナの母親は「ご迷惑じゃないの?」文句をいっていたけれど、
進の母親はむしろ喜んでいるようだった。
突然の来客にもかかわらず、会席料理のようにおかずをとりわけた小鉢をたくさん出され、ごはん一杯でお腹いっぱいになってしまった。
先に風呂を勧められて入り、進が入れ替わりに入っている間、部屋で枕を抱えながらうとうとしていたら、いつの間にか戻ってきたたくましい腕に抱き上げられ、ベッドに下ろされた。
いつになく性急で、余裕のないキス。
最初は眠気も手伝って、夢見心地で唇を受けていたが、耳元にあたる荒い息遣いと共に、上下のパジャマをやや乱暴に脱がされたあたりで、セナの意識が正気に返った。
「ちょっ、進さん!」
何だ、と言葉を返しながらも、進は目の前の身体をまさぐることに夢中だ。胸の突起をきつく吸われて身体が震えたが、ここで流されるわけにはいかない。
昼間のじゃれあうような触れ合いとは違う。進が「最後まで」するつもりなのは明らかだった。
煌々と明かりがついたままの室内。しかも、階下には進の両親がいるのだ。
「嫌です、やめてください・・・っ」
本当は拒否などしたくない。それでも精一杯の気持ちで哀願すれば、ようやく顔を上げた進は表情を曇らせた。
セナの言っていることがわからないという顔だ。
「なぜ拒む。触れられるのが嫌なら帰ればよかっただろう」
見下ろす目が怒っているように見えて、セナの心が軋んだ。違うんです、とただ首を振る。
「下に、進さんのお父さんとお母さんが」
「両親は二階には上がってこない。心配は無用だ」
話は終わったとばかりに行為を再開しようとするが、セナは抵抗した。
あがってこなければいいという話ではない。
まだ慣れていない行為。最後まですれば、声を抑えられる自信がない。
何より、彼の家族が眠っている同じ屋根の下で、そういう行為をすることに抵抗を感じるのだ。
そのことを、なぜ彼はわかってくれないのか。
おそらく、そんな苛立ちもまじっていた。
ぱしっ、と乾いた音がしたかと思えば、セナは気がつくと進の頬を平手で叩いていた。
「あ・・・」
ようやく動きをとめた進の頬を、セナの方が動揺した目でみつめていた。
セナの顔をみる進の目がすうっと細められる。
頭上から伸びてきた手に、セナはおもわずびくりと震えて目をつぶった。
殴られる、と思ったのだが、伸ばされた無骨な指は、思わぬ優しい動きで、目の下のしずくをぬぐっただけだった。
「・・・泣くほど嫌か」
違う、触れられるのが嫌なんじゃなくて。
言葉にならず、慌てて首を振ったが、進は苦しそうな顔をしたまま、セナの身体から離れた。
広い背を向けたまま、パジャマを身に着ける。
「進さん、あの」
「俺は客間で寝る。ゆっくり休め」
一度も振り返らずにそう言うなり、セナに何も言わせる間を与えずにドアを閉めて。
後には、裸に向かれたまま、呆然としたセナが、乱れたベッドに取り残されたのだった。
それからというもの。
進はセナに触れなくなった。
結局その日の夜、セナは進の部屋で一睡もできず。
翌朝、階下で物音がして降りてみれば、進は一人でランニングにでかけようとしていた。
強引に一緒に出かけて、前の夜のことを謝ったけれど、
進は「お前が謝るべき理由は何もない」と言ったきり、取り付く島もなかった。
一緒にいても会話もなく、二人の間の距離も空き。
それ以上に、心の距離が離れてしまったことが、セナにはつらかった。
求められたあの時。言われるままに身体を開けばよかったのだろうか。
あるいは、もっと一緒にいたい気持ちに目をつぶって家に帰っていれば。
今までは、なかなか満足いくまで触れ合えなくて、もどかしい気持ちを抱えながらも、
それでも進と一緒にいられるのが幸せだった。
初めて結ばれた時、お互いがお互いのものになった、そんな確証を手にした気がした。
二度目の行為を望んでいたのは、そんな確証がもう一度欲しかったからかもしれない。
だけど、身体を繋いだって、関係なんて一瞬で壊れる。あの日の夜のように。
あの幸せな時間をふたたび手にできるなら。
もっとしたい、なんて贅沢はいわない。
一緒にいて、笑いあって、軽く触れ合って、それだけでいい。
もう一度、あのやさしい関係を手に入れるには、
いったいどうしたらいいんだろう。
つづく
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