二回目の・・・
4
ほとんどの人が眠っている時間帯から人々が起きて動き出す時間帯へ。
それに合わせて黒美嵯川の河川敷も、生活感のある風景へと表情を変える。
毎日ここでランニングをしている二人は、いつもならもう走り終えて、
土手で人一人分ほど間を空けて座って、会話を探していた頃かもしれない。
半歩先を歩く進に手を引かれ、セナはうるさいほど耳に響く鼓動を聞きながら、
頬を火照らせうつむいていた。
『僕、進さんとしたいです』
そう言ってから、一言も口をきいていない。
だが、まるで逃がさんとでも言うように、セナの手をしっかりとつかむその手の力強さが、
セナの気持ちが伝わって、受け入れられたのだということを雄弁に物語っていた。
想いが通じた嬉しさを噛み締めるどころではなかった。
一言も発さない進に気まずさを感じる余裕もなかった。
進はセナの手を引いて、黙々と河川敷からはずれた路地へと入っていく。
どこに行くつもりなのか、聞かなくてもわかってしまった。
わかっているから、よけいにいたたまれない。
平日の朝。いつもなら家に戻って家族と朝食を食べて、学校へ行く時間。
さわやかな朝の光を背に受けながら、自分たちは手に手を取って、そんな日常を破ろうとしている。
学校をさぼって、これからしようとしていることの後ろめたさに、セナの手は冷たくじっとりと汗ばんだ。
それでも、進の大きな力強い手を振りほどこうとは思わなかった。
マンションのような外観に、ビジネスホテルのようなごく普通の部屋。
ただ、大きなダブルベッドは部屋の中央にあって、存在を主張していた。
ごくり、と喉を鳴らす間もなく抱きしめられて視界を塞がれて。
久しぶりに交わしたキスは、いつも冷静で寡黙なこの人のどこにそんな情熱が隠れていたのか、と思うくらい扇情的だった。
ほとんど一方的に口腔をまさぐられ、吸われ、むさぼられ。
進の舌は熾火のように身体の奥底に燻っていたセナの欲望を、強制的に燃え上がらせた。
激しいキスにカクンと力の抜けたセナの腰を、力強い二の腕が支えてベッドへ運んだ。
「待っ・・・シャワー」
「悪いが、もう待てない」
そのまま行為に及ぼうとしているのを察して戸惑いの声を上げるが、進は有無を言わさぬ口調でセナの抗議を封じた。
熱を湛えた男の目だ。そんな目で見られては、抵抗する力さえ抜けてしまう。
「んっ・・・でもっ・・・僕、汗かいてる・・・ッ」
首筋に顔を埋められて、それでもいやいやと首をふれば、お前の匂いは好きだから構わん、とまたたく間に着ているものを剥がれてしまった。
進自身も手早く服を脱ぎ捨てると、少し高めの体温と体温が触れ合って、セナは小さく身体を震わせた。
再び奪うように口接けされて、何も考えられなくなった。
今までの、セナを気遣う優しいキスとは違う、どこか激しさと乱暴さを感じる行為。
首筋に、鎖骨に、胸に、キスされる度にチクリとしたが、そんな小さな痛みすら昏い快楽の火を煽った。
ぷくりと硬くなった乳首を強く吸われ、片方を親指の腹でつぶすようにこねくりまわされると、セナは自分でも驚くほど甘い声を上げて身体を捩った。
腰を動かした際に、すっかり勃ちあがったモノ同士がぐりっと擦れあい、二人は同時に息をつめる。
進は苦しげに眉を寄せて堪えると、ベッド横のナイトテーブルから、小瓶を手に取った。
少し冷たいぞ、という言葉の意味を理解する前に、進の指が冷たい液体と共にセナの蕾の中に押し入ってきた。
「あッ・・・あ・・・ん」
ローションを使っているとはいえ、ずいぶん強引に入ってきたにもかかわらず、セナの内部はずいぶん柔軟に、進の指を受け入れた。
(最初のとき以来、最後までしなかったけど・・・いつも指とか舌とか・・・入れられてたからかな)
自分で触れたこともない、そんなトコロが、いつのまにか進に慣らされていたと知って、セナの頬はかあっと熱くなる。
だがそんな羞恥を感じていられたのも、異物感があった最初のうちだけだった。
「あ・・・あっ・・・ああんっ・・・」
心得た指が、内部の快いところを容赦なく攻めると、セナの身体はあっというまに蕩けた。
細い指をがっちりした肩に掛け、恥ずかしそうに頬を染めながらも、知らず股を大きく開いて、淫らに腰を揺らす様を、進は目を細めて眺めた。
自分の指を難なく飲み込んでいる内部はねだるように忙しなく締め付け、奥へ奥へと誘い込む。
この淫らさ、この内部の熱さ、抜き差しするたびに聞こえてくるいやらしい水音も、何もかも進の記憶の中のセナを超えていた。
「進さん・・・」
欲しい、とセナが目で訴える。進は指を引き抜くと、セナの両脚を高く掲げ、あらわになった秘部に痛いほど張り詰めた自分自身をあてがった。
「あ・・ああ・・・ッ」
熟れた蕾の中に入ると、途端に灼けるような内部が先端を締め上げてくる。襲い来る射精感に進は歯を食いしばって耐えた。
肩につかまる細い指に力がこもり、抱えあげている細い両脚はぷるぷると震えている。
だが進はゆっくりと、自身を奥まで押し込んだ。
ゆっくりとおおいかぶさると、セナがすがるように背中に手をまわしてくる。
どちらともなく安堵の息をついて、つながった場所からどくどくと感じる、お互いの拍動を聞いた。
「小早川」
進が名前を呼ぶと、彼が与えた快楽に蕩けた顔がこちらに向いて。
セナが見上げると、彼の中で快楽を感じている男の熱い目がこちらを見ていた。
彼のこんな顔を知っているのは、きっと自分だけ。
その歓びに、内部をきゅっと締めれば、進は衝撃をこらえるように眉を寄せ、中にいる進は途端にどくんと脈打って、大きさを増した。
一瞬息をつめた進の唇が、セナの唇を覆うと同時に、がっちりした腰は力強く動き出す。
「あっ・・あっ・・・あっ・・・あんっ・・・」
何度も大きく穿たれる度、セナはあられもない声をあげる。
揺さぶられて声を上げている間に恥ずかしいと感じていた頭の中も、白く霞がかかっていく。
進に穿たれている、その歓びだけが全身を満たしていく。
聞こえるのは、自分のものでないような感じ入った声。
二人分の、荒い息遣い。肌がぶつかる乾いた音。結合部から聞こえる湿った水音。
精悍な身体から滝のように流れ落ちる汗が、セナの身体にぽたぽたと降り注いだ。
音の間隔は次第に短くなり、やがてセナの小さな悲鳴と、進の小さなうめき声と共に、最後の時を迎えた。
熱い体液をたっぷり内部に注いだ後も、進はセナの中から出て行こうとしなかった。
セナも離れる気にならず、二人はじっと繋がったまま、乱れたベッドの上で抱き合っていた。
「小早川、俺は」
セナを胸に抱いたまま、進はぽつりと切り出した。
「お前を認めているし、最強の好敵手だと思っている。
だが同時に愛おしいし、いつでも抱きたいとも思う。
今日のようにランニングしている最中でさえ、不埒なことを考えてしまう。
こんな俺を、お前は軽蔑するか?」
顔を上げると、そこには不安げに揺れる瞳が、セナを見下ろしていた。
セナは首をふると、背中に回した腕に力をこめて、ぎゅうっと抱きしめた。
「僕も・・・同じです。同じことをおもっていました」
進に対する尊敬や憧れの気持ちは変わらない。
いや、彼のプレーをみる度に、その気持ちは強くなっているかもしれない。
だが、もうそれだけでは満足できないのだ。
彼に触れたいし、触れられたい。
身体だけ繋いだって確証になんかならないのはわかったけれども。
それでも、心も身体も、いつだって彼と繋がっていたかった。
無意識のうちに、下腹に力をいれてしまっていたらしい。
くっ、と頭の上の方でくぐもった声が聞こえたかとおもえば、セナの中で小さく鎮まっていた塊が、あっという間に大きさと硬さを取り戻した。
二人は困惑して見詰め合う。
このまま・・・いいか?
進の目がセナにおうかがいをたてている。
もう一度するのは構わないのだけれど。
「あの・・・シャワー浴びたい、です」
組み敷かれた体制のセナが、困った顔のままぽそりと言った。
つづく
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