だって

寂しかったから


 

胡瓜 by ごんぞうさま


 

「…どうしよう」

瀬那はリビングの机に置かれているビニール袋をちらりと見て、溜息をついた。

 

 

進がアメフト部の合宿に行ってから、今日で12日目。
2週間の日程だから、あと2日我慢すれば進に会える。
最初のうちは少し寂しいけれどそれほど大したことはないだろう、と甘く見ていた瀬那だったが現実は違っていた。
初日からがらんとした室内に違和感を感じ、3日目には思わず作ってしまった二人分の食事を見て泣きそうになり、5日目には何となく家に帰るのが嫌でモン太の家に押しかけてしまった。
7日目、9日目、そして今日、なんとか耐えてきたもののもう色々、そう色々なものが限界であった。
そんな時、スーパーに立ち寄った瀬那の目に入ってきたものを、瀬那は主婦にまぎれてこっそり手にとってしまい今目の前にあったりする。

玉ねぎ、油揚げ、牛乳、菓子パン、そして

「ホント、どうしよこれ…」

特売の大胡瓜。

特に胡瓜が食べたかった訳ではない。本来なら普通に通り過ぎているはずだった。
けれど、思わず立ち止まってしまったのには訳がある。その形というか、大きさというか、それが

「…僕、いつからこんな事考えちゃうようになったんだろ」

進のに、似ている、だなんて。
しかも、それを買ってきてしまう始末。
更に悪いことに、今視界にそれをとらえて確実に下半身が疼きだしている。
ズボンの上からもそれが確認できるようで、瀬那はソファの上で膝を抱えて首を振った。

「だ、だめっ…進さんと、約束したんだから」

合宿に行く前夜、しばらくできないからと進はいつも以上に瀬那を深く抱いた。
幾度となく熱を吐きだし、疲れ果て意識が薄れていた瀬那の耳元で進が囁いたセリフを思い出す。

『俺がいない間、一人でするのはだめだからな』

普段からは想像できないような艶っぽい声が未だ瀬那の耳に残っている。
それでも、今の状況では進の禁止の言葉はむしろ瀬那の欲を煽る材料にしかならず、うぅと唸ってから観念したようにズボンのベルトに手をかけた。
膝近くまでズボンと下着を下して、そっと熱を十分に持った自分のそれに手を絡ませる。
ほぼ二週間、刺激を与えられなかったソコは瀬那の不器用な動きにも敏感に反応して先走りをこぼした。
漏れそうになる声をわずかに残る理性で必死に押さえる。

「っふ…ん…」

やがて前だけの刺激では物足りなくて、ズボンと下着を完全に脱いで足を開いて奥の方に手を伸ばす。
自分でしたことは片手で足りるぐらいだったが、瀬那の細い指はすんなり中へ埋め込まれていった。
震える指がゆっくり出たり入ったりを繰り返す。
けれどいつも進から与えられる快感とはまったく違っていて、物足りなさを否定できない。
伏せていた目をうっすら開けば、視界に入った例のもののせいで余計に刺激を求めたくなってしまう。
普段は、あんなものをここに受け入れていると考えるだけでなんだか進に抱かれているような錯覚に陥った。
ベッドの中では到底頭は働かないけれど今冷静(とても冷静とは言い難い状況だが)に考えてみると、どうしても思ってしまう。

「あ…んなっ…はいんな」
「ただいま」

思わず出た正直な気持ちと同時に。
がちゃ、と扉を開く音と共に聞こえてきた声。
瀬那は喉をひくりと鳴らした。

高まっていた熱が一気に冷やされる。
幻聴かとも思ったが、小早川?と呼びかけられて間違いじゃない事がはっきりしてしまった。
上気した頬や火照った身体はどうしようもない、とりあえず服だけ整えなくてはと瀬那は焦るがうまく力が入らない。
あたふたしているうちに進がリビングに入ってくる気配がして、思わず瀬那は叫んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください進さん!絶対、ぜーったいこっち向かないでっ!」
「?…何かあったのか、小早…」
「わーーーーっホント、本当にちょっとそこで待ってっ!!」

瀬那のあまりに必死な声に進も足を止める。
不思議そうにもう一度どうしたんだと声をかけられて瀬那は返事もできずに待って、を繰り返すばかりだった。
見られる訳にはいかない。こんな、はしたない姿は。
そんな瀬那の様子に、進はなんとなく状況が理解できたのか今度は少し笑いを含んだような声で聞いてくる。

「俺に、見られたくないものでもあるのか?」
「そ、そう言う訳じゃっ…」

やっとズボンに手が届いた。
これを通せばとりあえずは…となんとか抜け道を見つけた瀬那は次に聞こえてきた声に思わず動きを止めてしまった。

「もし俺が考えている通りのお前の姿なら、この上なく嬉しいのだが」
「っ…///」

なにもかもお見通しだと言わんばかりのセリフに顔がこれ以上ないというくらい赤くなる。
待ってという静止の声も聞こえなくなり、それを承諾ととった進がリビングに足を踏み入れた。
ソファの背もたれに手をかけて、覗き込むように瀬那を見つける。
真っ赤な顔で瞳に涙をためて、着ているシャツを精一杯のばして露わになっている足をできるだけ隠そうとしている様子がたまらなく可愛い。

「随分、魅力的な出迎えだな」
「…ばかなこと言わないでください」
「約束は破られたようだが…」

それも悪くない、と言いながらそのまま瀬那の身体をソファに押し倒した。

「どこまでしたんだ?」
「っ…へ、変な事聞かなっん…」

文句の言葉は数日ぶりの熱いキスに遮られた。
奥深くまで、瀬那をむさぼっていく。そのまま、熱に浮かされて二人はお互いを求め続けた。

 

 

 

「でも…予定はあと二日で終わりじゃなかったんですか?」

薄手の毛布をかけてソファに横たわっていた瀬那がもっともな質問を進にする。進はキッチンで夕食の準備をしていた。

「なにか監督が学校の方から呼び出しがあったらしい。もともと最後の二日は紅白戦の予定だったからな、監督と部長が話あってこちらへ帰ることになったんだ」
「そうだったんですか」
「あぁ。…ところで小早川」
「はい?」
「これはなんの料理に使うつもりだったんだ?」

進の手には、例の大胡瓜が。

「そっそそそれはっ…その………浅漬け…に」
「普通の細い胡瓜はなかったのか?」
「と、特売……だったから」

むにゃむにゃと言葉を濁した瀬那にそうか、と一言返して進は料理を再開した。

 

大胡瓜が無事浅漬けになったのか、それとも…


それは二人だけの秘密。


 

 

おわり
裏越前屋へ


とうとう大胡瓜を買ってきてしまったのね瀬那!(笑)旦那様が留守の間の瀬那の行動がよっぽど寂しかったんだね、とぐっときました。
そしてひとりむにゃむにゃ〜や〜んvvv慌てまくる瀬那と察した進さんの言葉がもうかっこよくてめろめろです〜vvv
さて、ごんぞうさまに託された「心残り」・・・及ばずながら書いてみました(爆)
雰囲気壊しまくりですが・・・こちらからどうぞ;きゅうりぷれいです。ご注意;;