固い蕾が

いつしか花開くように

 

胡瓜´ by きょうこ


 

「ふう・・・」

瀬那はひととおり洗い物を終えると、ちらりとバスルームに目をやり、溜息をついた。

 

 

バスルームからはまだ水音が聞こえている。
合宿から帰ってくるなりコトに及び、ひとしきり睦みあった後で瀬那のお腹がく〜と情けない音を立てるのを聞いて、進は服を着るとそのまま台所に立ったのだ。
後片付けまでしようとしていたのを、瀬那がとんでもないと、バスルームへ追いやったのだった。
ならば一緒に入ろう、とキッチンに立った瀬那を背後から抱きしめ、低く甘い声で誘ってきたけれど。
耳元をくすぐる吐息交じりの低音に背中をぞくぞくさせながらも、理性を総動員させて断った。
疲れて帰ってきて食事まで作ってくれた進に洗い物までさせるわけにはいかない、確かにそれもあったけれど。

(今日の僕は、なんだか変だ)

進のいない間にあんなことをしていたせいだろうか。
シャワーも浴びないまま瀬那を抱いた時の進の体臭や、全ての甘さを削ぎとったような顎のラインから瀬那の胸へと滴り落ちる汗、耳にかかる荒々しい吐息すべてが瀬那の官能を刺激して、いつも以上に乱れてしまった。
それだけではない。瀬那のリクエストにそって、浅漬けとなって食卓にならんだ大胡瓜を目にしたとき、先刻まで瀬那を貫いていた進の熱い塊を思い出してしまい・・・一口サイズに切られたそれが進の口に入るところを見ただけで、さんざんこすりたてられたソコが熱をもってうごめきだすのを感じて、瀬那はあわてて進から目をそらし、腰をもじもじと動かしてごまかした。
一緒に風呂など入ったら、このあさましい状態をたちどころに悟られてしまう。
さっきしたばかりでこれでは、さしもの進もあきれてしまうだろう。

ガチャリとバスルームのドアが開く音がした。

(し、進さん疲れてるんだし)

今夜はもう寝かせてあげないとダメだ。今にも暴走しそうな身体の熱を散らそうと、瀬那はシンクの淵をぎゅっと握り締め、ぶるぶると首を振った。

「小早川?」

まだ洗っているのかと、進が髪をバスタオルで無造作に拭きながら、キッチンをのぞきにきた。シャワーを浴びたばかりで暑いのか、下だけパジャマを着て、上半身は裸だ。ぬぐいきれていない髪の毛から落ちるしずくが、鍛え抜かれた胸筋の谷間を伝う。あのたくましい身体が自分に覆いかぶさっていたのだ・・・と思い出しかけて、瀬那はうっすらと頬を赤く染め、進の身体から無理やり目をそらすと、「僕もはいってきますね」と進の横をすり抜けていった。
まるで逃げるようにそそくさとバスルームへ向かう華奢な背中を、進はじっと見送った。

 

 

 

いつもより時間をかけてシャワーを浴びて、暴れだしそうになる下腹の熱をなんとか鎮めて。
つとめてなんでもないふりをして照明を薄暗くした寝室に行けば、伸びてきた手に腕をとられ、あっという間にベッドの上で組み敷かれた。

「し、進さんっ・・・今日はもう・・・っ」
「あんなものでは足りないだろう?」

反論の言葉は唇で塞がれた。舌を絡められ吸うようにされたら、もう抵抗できなかった。先刻すでに何度もしたというのに、唇は飢えているように進の唇を求め、あさましい下肢は、わき腹から胸をまさぐっている進の無骨な手に触れて欲しくて、びくびくと脈打っている。唇で、手で、進に触れられている・・・耳たぶを甘噛みしながらため息のように漏れる進の吐息も、すべてが瀬那の脳内を甘くしびれさせた。

「おくちで・・・したい・・・」

自身を手で弄ばれながら、瀬那はうるんだ目で哀願する。進の熱い肉棒を口いっぱいにほおばりたい。喉の奥まで入れられるのは苦しいけれど、今夜はどんなことでもできそうだった。
薄く開いた唇に、進は手にしたそれをあてがう。思いのほか冷たい感触に、瀬那は「な・・・に・・・?」とあてがわれているそれを見ようとした。
視界に入ったのは緑色の・・・

「ど・・・どうして・・・」
「大きすぎて一度には食いきれんからな、半分取っておいた」

それにこれくらいの長さの方が、お前が咥えるにはちょうどいいだろう、と進は小さく笑った。
それは浅漬けになったはずの大胡瓜。有無をいわさず咥えさせられると、硬い表皮のところどころがぬるりとしている。どうやらご丁寧に棘まで削いであるらしかった。

「以前、スーパーでこれを見たとき、お前がなぜ赤くなったのかわからなかったが・・・今日のお前を見ていてわかった」
「!」
「俺がこれを食べていた時、何を想像していたんだ?」

何かを言おうにも、口腔いっぱいに大胡瓜を抜き差しされていて何もいえない。
消え入りたいとばかりに涙目になる瀬那を見て、進は意地悪く笑った。

「約束を守らなかったお仕置きをしないとな」

 

 

 

「あんっ・・・あんっ・・・」

さんざんじらされた挙句に、待ちわびていた後肛にやっと挿入が許された。
だが瀬那を貫いているのは進自身ではなく、瀬名が握っている、冷たくて硬い大胡瓜だ。
仰向けになって進の目の前で大股を開き、緑色の物体を出し入れして見せている。
「これをどうするつもりだったんだ?俺の前でやってみせてくれ」
それは要望ではなく命令だ。そんなの入らないっ、と泣いて首を振ったが、あさましく挿入をねだる秘部は、この冷たい棒状の野菜をずぶずぶと飲み込んでしまった。
ひとりでしていたときはあんなに味気なかったのに、今は進にこんな姿を見られているというだけで、こんなに恥ずかしくて・・・こんなに感じている。
進しか受け入れたことがない場所にこんなものを入れてはしたない声をあげて。抜き差しするたびにぐちゅぐちゅと音をたてるそこを、進がじっと注視しているのを痛いほど感じた。
後ろの刺激に瀬那の分身は腹につくほど反り返って、先走りの液をこぼしているけれど、こんなのじゃイケない。こんな冷たい、モノなんかじゃ終われない。

「進さん・・・進さん・・・ごめんなさい・・・進さんのをいれて・・・っ」

もうゆるして、と泣きながら懇願すると、進はようやく瀬那の手から大胡瓜を取り上げ、代わりに猛った自身を突き入れた。

「ア――アアアッ」

焼けた鉄のような熱さだった。大胡瓜とかわらない大きさと太さのはずなのに、それは瀬那の一部であるかのようにしっくりとなじみ、空虚だった瀬那の内部をいっぱいに満たした。ようやく求めていたものを与えられてほっとする間もなく、進が膝裏をしっかりと掴んで激しく突きはじめる。

「アンッ、アンッ、アンッ、アンッ!」

熱をもった場所をさらに激しく擦りたてられ、瀬那はもう何も考えられなくなる。
進も無言で腰を動かしている。瀬那の嬌声と荒い息遣いだけが寝室に響いている。

「あんっ、あんっ、もっとぉ・・・!」
「・・・ッ!」

いつも以上に乱れる瀬那の嬌態に、進はぎりりと歯を食いしばって絶頂をやり過ごす。
少しでも長く、この淫らな姿を眺めていたい。
最初のうちは進を固く拒んでいた蕾が、あでやかに花開いて。
明日の朝になれば、また清楚な白い花に戻るのだろうけれど。

進は瀬那の身体をうつぶせに返すと、尻だけを突き出させ、獣の体勢で貫いた。

「も・・・だめぇっ・・・進さん・・・ッ」
「くっ・・・瀬那・・・ッ!」

進が名前を呼んだ瞬間、それに応えるように内壁が進自身をきゅぅっと締め上げて。
二人は同時に欲望を吐き出したのだった。

 

 

「進さん、こんなところにいたんで・・・」

次の週末。再びスーパーに二人で買い物に行った時のこと。
瀬那がうっかり買い忘れそうになったハムを手に走って戻ってくると、進は青果コーナーを物色していた。
そこに並べられている大胡瓜を見て、瀬那はおもわず顔を赤らめる。
我ながらはしたないとはおもうが、あれをつかってシテしまったのだ。
何も感じないほうが無理というものだ。

(もう当分キュウリは食べられないよー・・・)

恨めしげに進を見ると、彼は大胡瓜の隣に並んでいるゴーヤを手にとってしげしげと眺めていた。
なにやらぽこぽこした表面を指で撫でて感触を確かめている。

「・・・進さん、まさか・・・」

変なこと考えてないでしょうね、とばかりに睨むと、進はそしらぬ顔で、

「今夜はゴーヤチャンプルにしないか?」

と聞いてきたのだった。


 

おわり
胡瓜にもどる
裏越前屋へ


うっ・・・すみません。ごんぞうさまの作品を汚してしまいましたっ;;
あと、エピソードをところどころごんぞうさまの日記にかかれたこの大胡瓜の最初の話からおかりしております;;