緋襦袢で四十八手
序
「んな格好できるか!この助平!変態!死ね!」 盛大な罵声と共に、艶本を投げつけられた。 雑誌の角が見事に命中した額を押さえて呻く鴆の前に、 桜模様の赤い襦袢を来たリクオが息を切らして仁王立ちしている。 真っ赤になって怒っている顔も、乱れた緋襦袢の裾からのぞく、光り輝くような白い脚も、 ひどく扇情的だが、今はそれどころではない。 今夜はこの体位で頼む、と艶本を見せたら、このザマである。 こうなることは予測できたが、しかし引くわけにはいかない。 何しろこれからの閨生活がかかっているのだ。 長着をひっかけて部屋を出て行こうとするリクオの背中を、鴆は抱きしめた。 「離せよっ」 「リクオ、愛してる」 低い声で耳元に囁くと、腕の中の身体がぴくっと跳ねて、大人しくなった。 「あんたとこうして一緒にいられるだけでオレは幸せだ。 けど、どうせなら、あんたにもっと気持ちよくなって欲しいし、オレもそんなあんたが見てぇ」 「…そんなの、今までだって十分」 貝殻のような耳はすっかり赤く染まっている。 よし、いい感じだ。 「もっと気持ちよくなれるかもしれねえだろ? 夫婦や恋人同士ってえのは、みんないろいろ試すもんなんだぜ?」 「…みんな?」 あんなことを普通にやっているのかと、幾分不安げな声がぽつりと聞いてきた。 いいぞ、もうひと押し。 「ああ。皆、言わねえだけで、普通にやっていることさ。 この襦袢、着てくれたのは、オレのためなんだろ? オレも、もっとあんたを悦ばしてえのよ」 長い沈黙の後、がっちりとリクオを捕まえていた腕に、白い手がためらいがちに触れた。 「試すくらいなら…」 (よっしゃー!) 小さな声で呟かれた諾の言葉に、鴆は内心ガッツポーズをとった。
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