緋襦袢で四十八手
30. つり橋(つりばし)
by 雛衣さま
衣擦れの音も無い、湿った沈黙が閨を満たしていた。鴆の視線の先、リクオは敷布の上で仰向けに、とろりとした目を宙に投げている。 しどけなく覗く肢体は上気して、着崩れた正絹の色を吸い取ったような薄紅色。極めたばかりの気だるさを持て余している様は、頼りなく保護欲をそそるくせに、滴り落ちそうな情欲も感じさせる。 吸い寄せられるようにして、熱い体を抱き込んだ。 「…ッ」 太ももに触れたぬめる熱に、リクオがピクリと反応を示す。 伺い来る眼には隠しきれない、先への期待。その気配を確かめて、鴆は額に口づけた。乱れた長い髪を梳いて、首筋の忙しない脈動を指で辿る。鎖骨に吸い付いて一つ花を咲かせ、掌でわき腹の弾力を愉しみ。 たどり着いた腰を両手で掴み抱えると、体の中心から浮き上がる不安定に身じろいだ。 「後ろに手、付いて支えてみろよ。あァ、そんな具合だ」 「ん。なぁ…ちょっと、これキツぃ」 「ちぃと、我慢してくれ。これが今日の趣向だからよ」 甘えてむずかる子の顔から、呆れたような眼差しに変わり、だがリクオは何も言わずに熱の篭った吐息を洩らした。 重なる演出のたびごとに、確実に、愉悦を学んでいる。其れ故と知れる許容の姿に、満足感と欲望が呼吸も苦しいほどに胸元に競り上がる。 耐えられず性急に身を進めた、白磁の脚のその奥。先ほどまで散々に弄り慣らした其処はふくりと柔らかく、だが慎ましく閉ざされていた。求めて擂りつけると、円やかな圧迫にリクオが甘く眉根を寄せる。 「ン…っ ふ。ぁ、ぜンっ…おめー、腕っ…」 「――ん?」 「おめーっ、の、腕がっ、この格好…」 「っ…たく、相変わらずだ、なァ」 「あッ、あ!」 この身を過剰に護ろうとする仕草も、彼の愛情の現れだ。それが嫌というほどに判ればこそ、嬉しくもあり、時に苛立ちもするし、可愛らしくも思う。 そして今浮かぶ衝動もまた、当然の発露。 構わず押し拓く先は、きゅうと絞り締め付けてくる。快楽に沈めた時間の割に頑ななその抵抗にも、僅かな支点に力を込めて体勢を保とうと気遣う努力が知れる。 そんな理性など抱き潰して、千切り乱してしまいたい。 「やっ!アぁっ ン!あっっ…!」 征服欲のままに、頼りない角度の体を揺さぶって、弱い箇所ばかりを容赦なく捏ね突く。 襦袢の緋色が、まるで身悶えるようにして波を刻む。 潤滑に用意した粘液と、互いの互いを求める体液と。濡れ爛れた音が響いて。 氷輪を思わせる美貌を蕩けさせたリクオが、気を遣れぬ辛さに悲鳴をあげた。 |
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