緋襦袢で四十八手


29
. 理非知らず(りひしらず) 前




身体が動かない。手首が痛い。

そう思って目を開けたら、鴆がこちらを見下ろしていた。

月の光が障子越しに差し込む部屋は、温かいが、明かりひとつない。

月光を背にした男の表情はわからない。

ただ緑色の目だけが剣呑な光を宿していて、

普段の鴆とは別人のように見えた。

「ぜ、ん…?」

自分のものではないような、かすれた声が出た。

鴆はものも言わず、リクオに覆いかぶさる。

「…ッ」

はだけた裾の間から潜り込んだ指が、いきなり奥の窄まりに侵入してきて、リクオは顔をゆがめた。

薬液をつけてはいるようだが、いつもに比べたら、

随分不躾で乱暴な行為だった。

思わず抵抗しようとして、初めて両手両足を縛られていることに気付いた。

手首は、おそらく腰帯か何かで、頭上でひと括りにされて、柱に縛り付けられている。

両脚はそれぞれ折り曲げられて、太腿のところで縛られていた。

「鴆…何を…」

身動きした瞬間、右の内腿にぴりっと痛みが走った。

そういえば、出入りで怪我をして、血が止まらないから薬鴆堂に来たのだった。

右の方だけ、かさばる感触があるから、おそらく治療は施されたのだろう。

怪我の手当ての後で行為になだれこむことも珍しくはない。

だが、こんな扱いを受けたことは今までに一度もなかった。

「てめー、ふざけんなっ…」

「それはこっちの台詞だろ。

いくら口で言ってもわかんねーようだから、身体にたっぷり教えてやるよ」

やっと口を開いた男は、ぞっとするほど酷薄な口調でそう言った。




28  29後


 

前後編にするほどの長さもないのですが今日は眠いのでここまで;
リク(?)内容も後編にて。



裏越前屋