お花見 6
月明かりの中、手首の紐を解かれた途端、阿呆鳥の頭を拳で殴った。 「いってえ…」 頭をおさえてうずくまる鴆を乱暴に押しのけ、リクオは横になったまま、自分で脚の紐を解き、手首をさすった。 おそらく一刻ほど繋がれていたのだろうが、その間に無意識に引っ張ったりしたので、 白い手首には赤い痕が痛々しく残っている。脚にも同様の痕が残っていた。 さんざんな目に遭わされた上に、ことが終わった今も、腰が立たずに起き上がることすらできない。 一発殴るくらいでは割が合わないというものだ。 「まさかこの程度で済むとは思ってねーよな」 褥の上でせいいっぱい睨みつければ、頭をさすっていた鴆はふいに真剣な目でリクオの方を向いて座った。 「オレはあんたに殺されたいと願っている男だぜ? あんたを失う以上に怖えことなんざねえよ」 緑色に光る目に捉えられて、リクオは一瞬言葉を失った。 思いつめたような、執着を露わにした目。 この男にこんな目で見られるのは、悪くない気分だった。 だけど、素直に喜ぶのも癪に障る。 リクオは緑の目から、無理やり視線を引きはがした。 「っ…だいたい、てめーが女といちゃついてっから…」 「先に女はべらせてたのはあんたの方だろうが。 おまけに猩影との熱烈な接吻まで見せつけてくれてよお。 あいつ子犬みたいな目ぇして、薬鴆堂までついてくってきかなかったんだぜ」 酔って口づけた相手は、女ではなく猩影だったらしい。 そのままつぶれたリクオを、本家じゃ騒がしいからといって、鴆が薬鴆堂に連れて帰った。 どうりで静かなはずだ。今日は組員も宴に出ているのだろう。 己の醜態を思い返して、リクオはため息をついた。 「…猩影にはあとで謝って」 ところが、みなまで言い終わらないうちに鴆が遮った。 「その必要はねえよ。リクオはオレのもんだって、はっきり言っておいた」 「なっ…」 ひとが酔いつぶれている間に、何を勝手に宣言しているのだ、この男は。 鴆は屈みこむと、きりきりと吊り上るまなじりの上に唇を落とした。 「仲間を増やすのはいい。他の奴を鬼纏うのも我慢する。 けどよ、奴らに必要以上に優しくすんなよ。 …あんたはもう、オレのもんなんだからな」 抗議する口も塞がれて、苦しくて息ができない。 鴆が自分に向ける執着とか独占欲とか、そんなもので心はいっぱいで。 横たわる身体に覆いかぶさり、再び求めてくる男の背中に、リクオは赤い痕がついた両腕を回した。 |
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