いつだって僕は
1 ここ数日、番頭などはしきりに箱の中を覗いて人間が集めた情報を集めていたが、 妖怪であれば、これから嵐が来ることくらいは風の匂いでわかる。 もっとも荒れるのは今夜ということで、薬鴆堂はその日の朝から嵐に備えていた。 まずは畑の薬草の保護、風で飛びそうなものは屋内へ移し、夕方になっていよいよ雨が降り出す頃には、全ての雨戸を閉め、診療所も休診にしてしまった。 嵐が来るのがわかるから、今時分にここを訪れる妖怪もいない。 本来は休診の札を出しておくべきところだが、嵐では風に飛ばされそうである。札をも中に入れて、かんぬきをかけ、玄関に背を向けたところで、ほとほとと戸を叩く音が聞こえた。 すでに雨は強い風に乗って屋敷全体に吹きつけている。 一瞬その音かと思ったが、音は規則的に、明らかな意図を持って叩かれている。 こんな時に患者か、と思い、一度かけたかんぬきを外して、戸を開けた。 そこに立っている若者を見て、鴆は目を疑った。 「リクオ!?」 横殴りの雨の中、ずぶ濡れの男が傘も差さずに立っていた。 「よう」 いつもは妖気でふわりとなびいている銀と黒の髪は、雨をたっぷり含んで肩にかかっている。 「こう、どこもかしこも締め切ってちゃ、入れねえだろうが」 全身から水を滴らせながら、妖怪の主は文句を言った。
|
||