十六夜(イザヨイ)その後
降りしきる雨の中、薬鴆堂まで来たリクオは、朧車を降りてから傘を差してきたようだが、 髪も羽織も少し濡れて、手も冷たかった。 このくらい平気だと言い張るリクオに、一緒に風呂に入ろうぜ、と誘った。 あからさまな誘いに頬を染めた恋人は、意外にも素直に頷いた。 引き戸をカラリと空けると、たちこめる湯気と共に檜のよい香りが二人を迎えた。 一糸まとわぬ身では寒いくらいの室温だったので、ざっと身体を流して先に湯船に入った。 リクオを向かい合わせに膝にまたがらせ、しなやかな背を抱くと、白い両腕が鴆の首に絡みついた。 「んっ…」 時折天井から滴が滴り落ちる音を聞きながら、角度を変えて何度も形のよい唇をついばんだ。 秘めやかな水音と息遣い、喉から洩れるくぐもった声が反響する。 しなやかな背に湯をかけてやりながら、しっかりとついた筋肉、無防備な脇腹、小さく締まった双丘の谷間に指を滑らせる。 水をはじく、みずみずしい肌の感触が、鴆の欲望をさらに煽った。 滑らかで熱い口腔を味わいつつ、程よい熱さの湯に身を沈めた。 そうして膝に乗せているリクオを一度肩まで湯に浸からせてから、 「隅々まで洗ってやるよ…」 耳朶を甘噛みしながら低い声で囁くと、感じやすい身体はビクリと震え、骨ばった鴆の身体にしがみついた。
「あっ…ん」 固い石鹸が乳首をかすめる度に、リクオは鴆の膝の上で甘い声を上げて身をよじった。 「こら…だめだろ、こんなんで感じてちゃあ」 たしなめる鴆の声も欲望にかすれている。 リクオが感じる場所にたっぷりと石鹸を塗り付けた後、泡立てた手でそれを全身に塗り広げた。 ぬめる指が施す愛撫に、乳首は固く尖り、若い雄は腹につくほど張り詰めた。 尻の谷間に指を差し入れ、入口の周りを擦ると、蕾は挿れられることを期待して、ひくひくと蠢いた。 鴆は唇を吸いながら、手拭いに石鹸を塗りつけて泡立て、リクオの全身を擦り始めた。 口腔を貪られつつ、ほどよい強さで首筋や背中を擦られる感覚に、気持ちよさそうに身を委ねていたリクオは、 手拭いが感じる部分に触れると、途端に身体をよじらせ、塞がれていた唇を離した。 「あっ…あんっ…も…やめろったら…」 「隅々まで、ちゃんと洗わねえとな…後で舐めるんだから」 執拗に感じる部分をこすりたてながら、熱のこもった声で囁くと、リクオは羞恥に頬を染めて目をつぶった。 宣言通り、まばらな茂みの一本、性器の皺の間まで、手拭いと指先で丁寧に洗いたてると、 鴆はリクオを膝から降ろし、白い足に恭しく唇を押しあて、形のよい足指を口に含んだ。
「アァッ…!」 泡を洗い流した後、時間をかけた愛撫で熟れた身体を湯船に入れ、立ったまま後ろから貫いた。 いつもより熱い内部が鴆の雄を迎え入れ、締めつける。 鴆は己の欲望を根元まで納めると、骨の浮き出た腰を両手で掴み、欲望のままに腰を打ち付け始めた。 洗っている間中、泡で包まれた全身を桜色に染めて悶えるリクオを目の当たりにしていて、もう我慢の限界だった。 「あんっ…あんっ…鴆…ッ」 なすがままに揺さぶられながら、リクオが切なげに鴆を呼ぶ。 鴆は一度己を引き抜くとリクオの身体を返し、引き締まった片脚を抱えて、今度は正面から貫いた。 激しく揺さぶりながら固く尖った乳首をつねり、固い腹筋でリクオの雄を擦った。 甘い声は反響して、こんな場所で事に及んでいるという後ろめたさをよけいに意識させ、ますます鴆の雄をたかぶらせる。 「あっ…も…でる…ッ」 「リクオ…ッ」 鴆の腕の中で、リクオがぶるっと身体を震わせた。 絶頂の前触れに、鴆はいっそう腰の動きを速める。 達したリクオの締めつけに鴆は低い呻き声を上げて、己の欲望を熱い内部に注ぎ入れた。
「…いつまでやってんだよ…」 湯船の中で、ふたたび鴆の膝に乗りながら、口づけの合間にリクオが文句を言った。 文句を言っている割に、その口調に勢いはなく、頬は上気し、金色の瞳は潤んでいる。 「綺麗にしとかなきゃあんたが気持ち悪ぃだろ…」 湯の中でリクオの中を執拗に指でまさぐっている鴆の頬もまたうっすらと紅潮し、リクオを見つめる緑の瞳は熱を湛えたままだ。 「後始末なのに気持ちよくなっちまったのか?仕方ねえなあ」 「馬鹿」 小さくなじられたが、あれだけで解放する気はさらさらなかった。 リクオもそれはわかっていて、ならばいっそここでした方が、と気持ちが流されかけているのが手に取るようにわかる。 鴆はほくそ笑むと、すっかり暖まった恋人の身体をさらに味わうために、駄目押しに懇願の口づけをリクオにしかけた。
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