伸びた影 重ならない二人
1
一月三日。 連日連夜、新年会は続いているものの、元旦に紋付き袴姿だった幹部連中もすでに平服で参加し、 いつもの宴会と変わらない様子になりつつある正月休みの夜。 今夜帰ると告げた鴆と一緒に宴会を抜け出したリクオは、薬鴆堂に向かう朧車を、 道中で適当に目を付けた神社へと急降下させた。 「おいおい、こんな寂れた神社に降りてどうする気だ?」 「初詣」 火鉢で温まっていた朧車から一歩外に出た途端、寒っ、と震えあがる鴆の手をとり、 リクオは足取りも軽く、月明かりのみが照らす参道を進んでいく。 正月だというのに、神社にひと気はない。ところどころ朱塗りがはがれた鳥居といい、廃屋のような社祠といい、 手入れがされた痕跡はまったくなかった。 「初詣なら本家のそばにも薬鴆堂のそばにもあるだろうが。ここに知り合いの土地神でもいるのか?」 「てめーは人混みの中だとすぐ気分悪くなるだろーが。ここに来たのははじめてだが、俺たちがお参りするにはぴったりだろ?」 こんな場所でご利益があるとも思えねえが、とぼやく鴆の手を離し、 リクオは変色した鈴を鳴らし、古い賽銭箱に小銭を投げ入れ、パンパンと手を打ち鳴らす。 土地神がいるかとか、ご利益とかはどうでもいいのだ。 鴆が薬鴆堂に帰って、日常に戻る前に、「人並みに」一緒に初詣に行きたかっただけだ。 毎日のように会っているし、大晦日から今日まで鴆はずっと本家に泊っていたけれど、 二人でどこかへ出掛けることはめったにない。 もっとデートしたいなんて、クラスメイトの女子みたいなことを言っても、鴆は笑ったりはしないだろうが、 それでも、こっぱずかしくて言えやしない。 文句をいいつつも、自分にならって手を打ち鳴らす鴆に満足して、さあ帰ろうと踵を返しかけたその時、 リクオは鴆の腕に抱きすくめられた。 「こんなひと気のないところに誘っておいて、まさかそのまま帰るなんて言わねえよな?」 細いくせに意外に力強い腕に絡めとられ、意地の悪い声で耳元で囁かれ、リクオの体温は一気に上がった。 「鴆」 心臓が激しく鳴っている。うるさい鼓動も、熱くなった頬も、この男が気づかずにいてくれたら、と切に願った。 今の顔を見られたくない、という願いもむなしく、リクオ、と甘さを含んだ声と共に、顎に手をかけられた。 至近距離から、鴆の顔がさらに近付いてきて、ぼやけた。 吐息が唇にかかる。 己の腰を抱く腕の感触と、触れる前に感じる体温にドキドキしながら唇を待っていると、 バチッという音と痛みと共に、身体ごと弾かれた。 |
||