伸びた影 重ならない二人
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完全に不意を突かれたが、尻もちをつくことは免れた。 同じく膝をついて着地した鴆と顔を見合わせていると、どこからともなく獣のうなり声に似た、怨嗟の声が聞こえてきた。 ――我が敷地内で不埒を働くとは図々しい奴らめ。 貴様らの影が二度と重ならぬようにしてくれるわ。 「誰だてめえ」 リクオが呼びかけたが、声はそれきり答えず、不穏な気配も消えた。 後には、少し欠けた月と、少し離れたところから呆然と向かい合う二人だけが残された。 困ったことになった。 触れるどころか、互いの影が近づいただけで、静電気のようなものではじかれてしまう。 一緒に朧車に乗りこむこともできず、リクオは車の上に乗って薬鴆堂へ向かうことになった。 屋外だけでなく、室内でも、行燈の明かりがつくる影でも反発しあってしまう。 「まいったな。これじゃ酒も飲めねえ」 「なあに、こうすりゃいいのさ」 鴆は行燈の明かりを消すと、月の光が差し込まない、寝室の奥へとリクオを引っ張り込んだ。 |
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