君との未来
1 「んっ…」 何でこんなことになっているのだろう。 口移しで飲ませた酒が、鴆の口の端からこぼれる。 あ、と思って唇を離そうとした瞬間、差し入れた舌を絡め取られ、引き戻された。 舌に残った酒を搾り取るように吸われ、身体が甘く疼いた。 だが骨ばった手が尻のあたりを着物越しに撫でまわす感触に、リクオは当初の目的を思い出し、 肩に手をついて強引に身体を引き離す。 「何だよ」 「何だじゃねーよ。まだ半分も食ってねーだろうが」 そう、暑い日が続いてほとんど食事をとっていない鴆に食べさせることが今夜のリクオの使命だ。 ところがこの下僕ときたら主人の命令にもろくに従わず、食べさせろだの口移しだのと要求したあげく、 一口食べさせるごとに酒を要求して来る。 「飯なんか一口も食ってねーだろ。オラ食わせてやるから口開けろ」 「わ、わかった。じゃあその前に味噌汁、な?」 刺身や味噌汁は喉を通っても、あくまで白飯は口にしたくないらしい鴆を、リクオは苦い顔で睨んだ。 座っている相手に汁物を口移しするのは、案外難しい。 戯れにするなら話は別だが、相手にちゃんと飲ませようとすると、さっきのように零して着物を汚してしまう。 鴆はと言えば、すっかり居直って、飲ませてもらう気満々の表情で、リクオを見つめている。 さあどうすると言わんばかりの態度に、リクオは意を決して、椀に注がれた味噌汁を呷った。 椀を降ろすと同時に、鴆をどんと突き飛ばす。 「!!いっ」 畳に頭をしたたかに打ちつけて顔をゆがめる鴆にのしかかり、口を塞いだ。 舌を割り入れ、味噌汁を少しずつ流し込む。 身体の下で、鴆の喉が鳴って、嚥下する音が聞こえた。 むせないように気を付けたつもりだったが、最後の方で少しむせていた。 だが鴆は咳込みながらも、身を離そうとしたリクオの背中を、いつのまにか回した両腕でがっちりとつかまえて離さない。 「おい、平気かよ」 「ゲホッ…珍しく積極的じゃねーの…うれしいぜ」 苦しそうにしながらだらしなく緩んだ鴆の表情に、リクオは今の体勢に気が付いた。 まるで自分から鴆を押し倒したような。 「ばっ…ふざけてねーでちゃんと食えっ」 再び起き上がろうとするが、思いのほか力強い腕は、リクオを離さなかった。 「あんたを食いたい」 耳たぶをかじられて、身体が震えた。 「馬鹿、まだ残って」 理性を総動員して離れようとすると、下腹にぐりっと昂りを押し付けられる。 布越しにもはっきりとわかるほど、固くいきり立ったそれ。 リクオの口から、思わず甘い声が漏れた。 「こんなんじゃ飯どころじゃねえよ。終わったらちゃんと食うから…な?」 下から突き上げるように、固くなったものを擦りつけながら、懇願するように首筋に何度も口づけられ。 その上、熱のこもった吐息と共に、甘く低い声で囁かれたら、もう抗うことなどできなくて。 リクオは顔を上げて、小さなため息と共に、男の口づけを受け入れた。
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