君との未来

2




口づけは、リクオをいつも落ち着かない気持ちにさせる。

唇や舌が合わさりあう度に聞こえる湿った音は、どこか後ろ暗いことをしているかのように、

やけに大きく聞こえて、心臓の音を跳ね上げた。

口に含んでいた汁物の味は、鴆の舌に何度も舌を扱かれ、口腔をさぐられているうちに、

もうとうにわからなくなった。

行燈ひとつだけが照らす、静まり返った寝室で、聞こえるのは秘めやかな水音と、やや乱れた二つの吐息、

それから時々漏れるかすかな声をかき消すように大きく響く、衣擦れの音だけだ。

「リクオ…」

口づけの合間に囁く声は、欲情に濡れている。

食事の最中に猛ったものを押し付けてきた鴆は、すぐにでもリクオが欲しいらしく、

焦らしたり戯れたりすることなく、忙しなく帯を解いた。

執拗に舌と口腔を貪り、はだけた胸の頂を口に含む一方で、リクオの分身に手を伸ばしてきた。

「あっ…ん」

乳首に歯を立て、あるいは指できつく抓りながら、もう一方の手で、勃ちあがりかけている若い雄を忙しなく扱く。

「はっ…あっ…」

一方的に追い上げられる行為に羞恥を感じつつも、感じる部分を重点的に責められ、

大きな骨ばった手で力強く上下されれば、あっというまに昇りつめて。

緑の目の熱い視線を痛いほど感じながら、快感に流されて、鴆の手の中に精を吐き出した。




息も整わないうちに力の抜けた身体を返され、獣の姿勢にさせられる。

突き出した双丘の谷間に、薬液をまとわせた指を入れられて、

何度か探るように入り口のまわりをなぞられた。

快楽を教え込まれたそこは、それだけであさましくひくついている。

指先が中に潜り込んでくると、歓迎するようにきゅっと締め付けてしまった。

「ぁあんっ…」

最初に抱かれた時には異物感しか感じなかったその行為が、今は気持ちよくてたまらない。

指はリクオの中を探るように、ゆっくりと抜き差しを繰り返す。

指の腹と関節が内壁を擦る度に、電流のような快感が背筋を伝って這い上ってくる。

抜き差しする速度があがると、ぴちゃぴちゃといやらしい水音が大きく響いた。

口づけよりももっと恥ずかしいことをされているのに、気持ちよくていたたまれない。

「あっ…ぁあん…鴆…」

すぐにでも鴆のものを受け入れたいのに、指は数を増やしながら慎重にリクオの内部をほぐしていく。

指を増やし、抜き差しの速度が増すと、湿った音はますます大きく響いた。

「鴆…もういいからっ…」

恥ずかしいよりも焦れてそう告げれば、鴆も限界なのか、指を引き抜き、覆いかぶさってきた。

「あぁっ…ぁっ…」

押し入ってきたものはいつもより硬く大きく感じられて。

張りつめた先端に、入り口や内壁を限界まで広げられる感覚に、まだほぐしたりなかったことを知った。

だが、大きすぎる昂りが入ってくることに、痛みと紙一重の快感を覚えた。

狭い内部いっぱいに、鴆が熱く脈打っている。

慣らし足りない、きつい挿入だけに、今自分たちは繋がっていると、よけいに強く感じられた。

「あっ…あっ…」

はちきれそうな肉棒は、抜き差しを繰り返しながら、内部を押し広げて奥に進んでいく。

抽挿はすぐに速くなり、激しく奥を突かれる度に嬌声を上げてしまう。

後ろを責められながら両方の乳首もいじられると、触れられていない分身が痛いほど張りつめた。

繋がった部分が熱く溶け合って、もうどこまでが自分でどこまでが鴆かもわからない。

何も考えられず、どちらのものともつかない絶頂が見えてきた時。

「ッ…リクオッ…」

低くきしむような鴆の声が聞こえるのと同時に、首筋に焼け付くような痛みを感じた。

甘噛みの域を超えて、牙は無防備な皮膚を破り、深く食い込む。

喰われる、という本能的な危機感に、リクオは目を大きく見開いた。

それと同時に、背中の百鬼が燃えるように熱くなった。

首筋に熱いものが流れる、むずかゆさを感じ、

一方ではいっそう激しく突き上げられ、内部に熱を放たれるのを感じた。

身体の内と外で痛みと熱を感じながら、リクオも精を吐き出した。

もし、今ここで鴆に喰われるなら。

それでもかまわないと思った。




リクオの首筋にはくっきり牙の痕が残り。

血まで流れたそれを、我に返った鴆は平謝りしながら治療した。

髪を撫で、何度も口づけては許しを乞う男に、鴆、とリクオはややかすれた声で言った。

「てめーは一日でも長く、オレと一緒にいたくねえのか」

てっきり噛みついたことを怒られるのだと思ったらしい男は、驚いた顔をしたが、

返答を迫るように睨みつけると、そりゃもちろん、と言葉を返した。

「できるもんならずっと一緒にいたいに決まってるだろ」

「だったらちゃんと食え」

病弱なのは毒のせいでも、食わなきゃよけいに体力も落ちちまうだろうが。

横たわったまま見上げてくるリクオの眼差しに、横で正座している鴆の表情も神妙になった。




ふすまを開けると、膳はいつのまにか片づけられていた。

奥の部屋からそれを見て、リクオがため息をつく。

ところが鴆は、廊下に通じる障子を開け、組員を呼んだ。

「悪いが、さっきの残り飯で茶漬けでも作ってきてくれないか。さじも一緒に頼むわ」

鴆の言葉に、リクオは驚いて目を見開いた。

「鴆…」

「また食わせてくれるよな?」

振りむいた薬師は、憎めない表情でニッと笑った。






 


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裏越前屋