耳元で囁きながら
1 「よう、リクオ」 リクオが薬鴆堂を訪れると、鳥の頭が出迎えた。 首の部分までが緑色の鳥の頭部で、鎖骨あたりから下は、胸に毒の模様が刻まれた人の姿である。 まるで人間が鳥の被り物を被っているようだった。 「季節の変わり目のせいか、どうも妖力を制御できなくてよぉ」 最近どうしても頭部だけ人型になれないのだと、鴆は言った。 首から上は鳥、下は人の姿をした薬鴆堂の組長は、盃の中身を、器用にくちばしの中に空けて飲んでいる。 「それならいっそ、全部鳥になったらどうだ」 綺麗な月に誘われて縁側で飲んでいるが、そろそろ部屋の中で飲んでもいい季節だ。 鳥型の方が暖かいだろうに、とリクオが指摘すれば、鴆は馬鹿、と笑った。 鳥が笑うというのも変な話だが、確かに笑い声がしたのだ。 「全部鳥になっちまったら、あんたを抱けねえだろうが」 目を見開いたリクオが立ち上がるより先に、腕を掴まれる方が早かった。 あっという間に鳥男の胸に抱き込まれる。 頬のあたりがもこもこして、妙な感触だった。 「てめー、本気か」 「ったりめーだろ。それとも何か、こんな頭のオレは願い下げか?」 耳元から聞こえてくる声は、まぎれもなく鴆のものだ。 二人きりの時にだけ聞ける、甘く響く低音で囁かれたら、もう否も言えなくなる。 「…別に、そんなんじゃ」 衣擦れの音がして、優しく、けれども逃がさないとばかりに抱きしめられる。 「そういってもらえてうれしいぜ…愛してる、リクオ」 囁かれた言葉に、ぞくりと身体が震えた。 どんな頭だろうが、鴆は鴆だ。 頬に当たる羽毛の感触は不思議だったが、それも大した問題ではないのかもしれない。 頬を包む大きな手の感触に、リクオは目を閉じた。 暖かく湿った吐息が唇にかかる。 口づけの雰囲気に、目を閉じたまま待っていると、 「いてッ」 口にくちばしがぶつかった。
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