耳元で囁きながら




「よう、リクオ」

リクオが薬鴆堂を訪れると、鳥の頭が出迎えた。

首の部分までが緑色の鳥の頭部で、鎖骨あたりから下は、胸に毒の模様が刻まれた人の姿である。

まるで人間が鳥の被り物を被っているようだった。

「季節の変わり目のせいか、どうも妖力を制御できなくてよぉ」

最近どうしても頭部だけ人型になれないのだと、鴆は言った。

首から上は鳥、下は人の姿をした薬鴆堂の組長は、盃の中身を、器用にくちばしの中に空けて飲んでいる。

「それならいっそ、全部鳥になったらどうだ」

綺麗な月に誘われて縁側で飲んでいるが、そろそろ部屋の中で飲んでもいい季節だ。

鳥型の方が暖かいだろうに、とリクオが指摘すれば、鴆は馬鹿、と笑った。

鳥が笑うというのも変な話だが、確かに笑い声がしたのだ。

「全部鳥になっちまったら、あんたを抱けねえだろうが」

目を見開いたリクオが立ち上がるより先に、腕を掴まれる方が早かった。

あっという間に鳥男の胸に抱き込まれる。

頬のあたりがもこもこして、妙な感触だった。

「てめー、本気か」

「ったりめーだろ。それとも何か、こんな頭のオレは願い下げか?」

耳元から聞こえてくる声は、まぎれもなく鴆のものだ。

二人きりの時にだけ聞ける、甘く響く低音で囁かれたら、もう否も言えなくなる。

「…別に、そんなんじゃ」

衣擦れの音がして、優しく、けれども逃がさないとばかりに抱きしめられる。

「そういってもらえてうれしいぜ…愛してる、リクオ」

囁かれた言葉に、ぞくりと身体が震えた。

どんな頭だろうが、鴆は鴆だ。

頬に当たる羽毛の感触は不思議だったが、それも大した問題ではないのかもしれない。

頬を包む大きな手の感触に、リクオは目を閉じた。

暖かく湿った吐息が唇にかかる。

口づけの雰囲気に、目を閉じたまま待っていると、

「いてッ」

口にくちばしがぶつかった。




鳥頭鴆さんフェアです。さあみなさまごいっしょに!
ビジュアルと鳥頭になったいきさつは、Qsecond後。のつのさまの9月TOP絵からお借りしました<m(__)m>
最初えっ;と思ったけれど、何度も見ていると不思議とかわいく見えてくる鳥頭鴆さん(笑)
つのさま、素敵なネタとフェアをありがとうございましたー!

 



裏越前屋