もっと見たいよ
1 鴆に教えられた大人のキスは、想像していたものとまったく違った。 「んっ…」 暖かくてざらりとした舌が唇を割って侵入し、戸惑う舌を絡め取る。 気が遠くなるほどしごかれて吸われて、それから歯茎を、口蓋や頬の内側を、 その形を確かめるように舌が触れる。 熱い舌で何度もねっとりとなぞられる度に、電流のような快感が走って、 ここが、誰がのぞいているかわからない本家であることも、今が昼間であることも、何も考えられなくなってしまう。 こんなキスをされたら、昼間の華奢な身体ではもう立っていられない。 力が抜けてくずおれそうになる身体を、力強い腕が支えた。 「は…ぁっ…」 抱き寄せられた胸は広くて暖かい。 しがみ付いた背中は、夜の身体でいる時よりも、ずっと頼もしく感じる。 リクオは飲みきれなかった唾液が口の端を伝うのもそのままに、ぼんやりと鴆を見上げた。 そんなリクオを見つめて、鴆は苦笑する。 「んな顔すんなよ…今夜、うちに来るだろ?」 これ以上したら、抱きたくなっちまう。 鴆はそう言いながら、もう一度、名残惜しげに口づけた。
彼をのせた朧車が去っていくのを玄関先で見送る。 毎日のように昼間会いに来てくれて、毎晩のように薬鴆堂を訪ねて、夜明け前まで一緒にいるけれど。 帰っていく鴆を見送るのは、少し苦手だった。
|
||