もう我慢できない・・・




夜中にふと目を覚ました。

部屋も障子の向こうもまだ暗い。夜明けまであと一刻はありそうだ。

鴆は少しだけ身体を起こし、傍らで眠る恋人の顔を眺めた。

整いすぎている美貌だが、頬の輪郭がわずかに幼さを残している。

長い睫と、美しく弧を描く瞼は、宝石のような金色の瞳を隠している。

閉ざされた目元はほんのりと赤く染まっている。先刻までの情事の名残だ。

ほんの半刻前まで、自分たちは繋がって、互いを確かめ合っていた。

リクオは鴆を受け入れて涙をこぼしながら喘ぎ、そして絶頂を迎えると気を失うように眠ってしまった。

自分の前で無防備に眠るその表情も、形のよい唇からこぼれる寝息も、

鴆に寄り添うように身体を寄せて眠る仕草も、すべてが愛しくてたまらない。

「…ん…」

リクオはわずかに眉を寄せると、鴆のものより一回り小さな手をさまよわせた。

手が鴆の腰のあたりを掴むと、安心したようにため息をついて、

また規則正しい寝息をたてはじめた。

鴆の口元が自然に緩む。

リクオは今、夢でも見ているのだろうか。

オレの夢だったらいいな、と鴆は思った。

ずっと一緒にいられるわけではないから、せめて夢の中くらいはリクオを独占したい。

などと考えながら、頬の輪郭を指でなぞったり、耳に息を吹きかけたりしていると、

「うーん…」

リクオがくすぐったそうに身動きした。

ああ、起こしてしまったか。

と思いつつも本音では、リクオに起きて欲しかった。

夜の逢瀬は短い。特に今夜はリクオが途中で気を失って眠ってしまったから、

まだ熱が身体の中でくすぶっている。

今からなら、あと一度くらいは繋がることができるだろう。

絹糸のような黒と銀の髪をなでながら、懇願するように触れるだけの口づけを繰り返していると、

桜の花びらのような唇がうすく開き、ため息のような吐息をこぼした。

「つらら…まだいいだろ…」

甘えるような口調で紡がれた言葉を聞いて、鴆は固まった。




またもやありがちネタですみません;
優雅で上品な季節ネタを書きたいと思いつつ、
真逆の方向に突っ走っている気がします。



裏越前屋