もう我慢できない・・・
1 夜中にふと目を覚ました。 部屋も障子の向こうもまだ暗い。夜明けまであと一刻はありそうだ。 鴆は少しだけ身体を起こし、傍らで眠る恋人の顔を眺めた。 整いすぎている美貌だが、頬の輪郭がわずかに幼さを残している。 長い睫と、美しく弧を描く瞼は、宝石のような金色の瞳を隠している。 閉ざされた目元はほんのりと赤く染まっている。先刻までの情事の名残だ。 ほんの半刻前まで、自分たちは繋がって、互いを確かめ合っていた。 リクオは鴆を受け入れて涙をこぼしながら喘ぎ、そして絶頂を迎えると気を失うように眠ってしまった。 自分の前で無防備に眠るその表情も、形のよい唇からこぼれる寝息も、 鴆に寄り添うように身体を寄せて眠る仕草も、すべてが愛しくてたまらない。 「…ん…」 リクオはわずかに眉を寄せると、鴆のものより一回り小さな手をさまよわせた。 手が鴆の腰のあたりを掴むと、安心したようにため息をついて、 また規則正しい寝息をたてはじめた。 鴆の口元が自然に緩む。 リクオは今、夢でも見ているのだろうか。 オレの夢だったらいいな、と鴆は思った。 ずっと一緒にいられるわけではないから、せめて夢の中くらいはリクオを独占したい。 などと考えながら、頬の輪郭を指でなぞったり、耳に息を吹きかけたりしていると、 「うーん…」 リクオがくすぐったそうに身動きした。 ああ、起こしてしまったか。 と思いつつも本音では、リクオに起きて欲しかった。 夜の逢瀬は短い。特に今夜はリクオが途中で気を失って眠ってしまったから、 まだ熱が身体の中でくすぶっている。 今からなら、あと一度くらいは繋がることができるだろう。 絹糸のような黒と銀の髪をなでながら、懇願するように触れるだけの口づけを繰り返していると、 桜の花びらのような唇がうすく開き、ため息のような吐息をこぼした。 「つらら…まだいいだろ…」 甘えるような口調で紡がれた言葉を聞いて、鴆は固まった。
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