桜に牡丹

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柔らかく揺らめく行燈の光は、紅梅色の襦袢を緋色に照らしていた。
外で見た時よりも色褪せたような赤が、敷布に横たわる肢体をいっそう艶めかしく見せていた。

「脱がすのがもったいねえな・・・」

自分用にあてがわれた客間で、主(あるじ)の羽織と小袖を衣桁(いこう)に掛けた鴆は、
床に寝そべった赤い襦袢姿のリクオにゆっくりと覆いかぶさった。

「ん…」

静まり返った部屋に、衣擦れの音と、口づけを交わす音だけが聞こえている。
熱く湿った口腔と舌を味わい、リクオの表情が艶を帯びるのを待ってから、懐に手を差し入れた。
腰帯を緩めているために、緋色の襟は抵抗なく開き、中からきめ細かい白い肌が露わになった。
堅い胸筋のついた、なだらかな胸に手を這わせ、淡く色づいた頂の小粒を指でつまんだ。

「あっ…」

二つの指の腹の間で押しつぶすように擦りながら、しっとりと湿った白い首筋に舌を這わせる。
首筋に唇をよせるとくすぐったがられることも多いが、今は両方の乳首に与えている刺激に意識がいっているために、嫌がるそぶりはない。
むしろ乳首を虐められながら首筋をざらりと舐め上げられることに、快感を覚えているように見えた。
襟で隠れるぎりぎりの部分を強く吸って痕を残す。他の部分にも花びらのような痕を残しながら緋の衣を剥き、露わになった胸に唇を落とした。

「ぁ…ん」

口に含んだ果実に舌で触れると、ため息のような甘い声が聞こえた。指で散々弄られたそこは、すでに固く尖っている。
一方をきつく吸い上げ、あるいは歯を立てながら、もう一方も指で押しつぶすように強くつねってやった。
空いた手で、骨の浮いた、引き締まった腰を撫でまわす。

身をよじるリクオの反応に満足しながら、愛撫の唇は鳩尾、へそ、脇腹と下り――下帯を窮屈そうに押し上げている部分を布の上からそっと噛んで声を上げさせ、その後ふいに左の足首を掴んで持ち上げた。
緋色の裾がはだけて、白い脚が露わになった。

「鴆…ッ」

焦れたリクオの声を無視して足袋を脱がし、男のものではあるが完璧な造形の足の甲に唇を落とす。
それから、形の良い足の指一本一本を口に含んだ。口淫するように舌を絡め、口をすぼめて強く吸う。
指の間も丁寧に舐め、柔らかい皮膚に歯を立てた。

「やめろよ・・・きたねぇだろ・・・」

リクオの抗議はどこか弱々しい。こういう時に言っても聞きやしないというあきらめがあるのかもしれないが、抵抗しないのは「そんな部分」を舐めまわされることに、快感を覚えつつあるからだ。
最初はまっさらだったリクオの身体にまたひとつ、快楽を教えられたことを、鴆はひっそりと喜んだ。
右足の足袋も脱がせて足と指を堪能した後、引き締まったふくらはぎに歯を立てる。

「…ッ」

なめらかな皮膚の下で、筋肉が瞬時に固く張り詰めるのを感じた。
おそらく無意識に走った緊張をなだめるように、噛んだ痕に舌を這わせた。
それから膝の裏を吸い、赤い裾を割って太股を露わにした。
陽に当たることのない内腿の白さが鴆の目を灼いた。
しっとりと湿った薄い皮膚に唇を落とし、ここにも所有の印を残す。
足を開かせ、下帯の上から舌を這わせると、切なげな声が鴆の名を呼んだ。

下帯を解くと、先走りで濡れた若い雄が勢いよくまろび出た。
黒の混じった白いまばらな茂みに口づけ、根元を舐め上げてから先端を口に含むと、リクオはビクリと腰を跳ねさせた。
固く目をつぶり、顔を背けているが、いつものように口淫は嫌だと抵抗する様子はない。
これまで焦らされすぎて、羞恥を優先する余裕もないのかもしれない。

「あ・・・あっ・・・」

口に含んだ先端を舌で転がし、音を立てて滴を吸い上げると、リクオの口から素直な嬌声が上がる。
くびれや裏筋を舐め上げ、リクオのいいところを存分に攻めたてた後、深く咥えこんで、頭を上下させた。

「あっ…あんっ…」

根元に指を添え、リクオの狭い内部を模すように咥えこんではきつく吸い上げた。
雄を扱かれて吸われる強烈な快感に、リクオはいつしか我を忘れて、鴆の頭の動きに合わせて腰を動かす。

「あっ…あっ・・・もう、で・・・」

言い終わらぬうちにリクオは押し付けるように鴆の頭を抱えたまま、口の中に精を吐き出した。

荒い呼吸をつきながら、己のはしたない行為に赤くなった顔を覆うリクオをよそに、鴆は口内に放たれた精を飲みこむと、先端に残った滴も吸い取って顔を離した。

袂から薬入れを取り出すと鴆は手早く着物を脱いた。
薬入れから潤滑剤を掬い取り、冷てぇぞ、と一言断ってから、はだけた裾の間から指を差し入れ、最も奥まった部分に触れる。
固い蕾は冷たい感触にびくりとなったものの、すぐに愛撫を期待して蠢き始めた。
頑なな入口をなだめるようにぬめりを帯びた指先で円を描いていると、やがて蕾は綻びはじめ、指先を少しずつ中に招き入れるようになった。
わずかに白い眉を寄せ、浅く息を吐くリクオの表情をうかがいながら、鴆は少しずつ指をリクオの中へと潜り込ませていく。

「あっ・・・あんっ・・・」

最初は固かった内部が鴆の指と与えられる快感を思い出して柔らかくほぐれ、抜こうとする指を締めつけるように動き始める。
指を増やして内部の感触を愉しみ、リクオのいいところに触れては、その度に声を上げてびくびくと跳ねる身体を堪能した。

だが、緋色の襦袢を纏ったまま乱れる白い身体はいつにも増して扇情的で。
鴆の理性もそう永くは保ちそうになかった。

「あっ・・・ああ…ッ」

己の雄にも潤滑剤を塗りつけて挿入したものの、内部はやはり狭い。
痛いほどの締めつけに眉を寄せながらも、鴆は身体を固くしているリクオの身体の力を抜かせながら、少しずつ中に入っていった。
奥まで繋がると、どちらともなくほっと息を吐く。

繋がった部分から、お互いの熱と脈動が感じられる。
リクオが、上気した頬と熱で潤んだ目で鴆を見上げていた。
閨でしか見せない、情欲に満ちたリクオの表情だ。

「綺麗だな」

思わずそう呟けば、

「お前がな」

小さく笑った唇から、思いがけない言葉が返ってきた。
ひょっとして自分も今、リクオと同じ表情をしているのだろうか。

惹きあうように唇を重ねながら、腰を動かしはじめた。
ため息のような甘い声を聞きながら、鴆を強く締めつけ、しっとりとまとわりつく内部を堪能する。
固くなった欲望が内部を抉る度に、そらされた白い喉からは善い声が漏れた。
やがて気遣う余裕もなくなり、白い両脚を抱え上げて思い切り腰を打ち付けた。
肉を打ちつける乾いた音と、結合部が立てるいやらしい水音が、リクオの嬌声に混じって室内に満ちる。
荒い吐息のほかに言葉もなく、二人はただ獣のように、お互いが最も感じる部分を擦りつけ合った。

「あんっ・・・あッ…!」

中を擦られつづけて、しなやかな背中がぴんと張り詰め、リクオが二人の腹に熱い精を漏らす。
射精の瞬間のきつい締めつけに、鴆も己の欲望をリクオの中に放った。




「おめぇ・・・よほど気に入ったんだな・・・」

この襦袢。どこか疲れた声でリクオが言った。
すっかりはだけて皺だらけになった襦袢は、それでも未練がましく白い肢体にまとわりついている。

心の中を見透したような発言に鴆はぎくりとした。
だが考えてみれば、彼はいつも必ず全てを剥ぎ取って、自分と同じ模様を含む百鬼の刺青を執拗に舐めまわしている。
そんな男が、後始末が終わった今に至るまで一度も襦袢を脱がさなかったとあらば、嫌でも気がつくというものだ。

「いや、その・・・あんたがあんまり色っぽいもんだから・・・」

別にやましいことは何もないが、つい言い訳がましくなってしまう。
いつもの純白の襦袢も清楚でいいが、赤の襦袢を纏った彼はとても扇情的だった。

また着てくれよ、と、かなり本気でお願いしてみれば、リクオはふいと横を向いた。
白い頬が、ほんのり赤く染まっている。
襦袢と同じ色になった頬に、鴆は唇を押しあてた。



おわり

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WJ17号のセンターカラーで夜若がお花見で緋襦袢を着ていた…んですが、その時は気がつかず(!?)
「百千代」の富餅様がそのネタで描かれた緋襦袢イラストを拝見しふおおおっっ!となって書いた話です。
す、すみません勝手にコラボみたいなあつかましい真似を…ッ;;
富餅様、こんなんでよかったらもらってやってください///
緋襦袢夜若いいですね!!

裏越前屋