下帯物語
初めてのデート以来、月が綺麗な夜になると、鴆とリクオは蛇ニョロに乗ってよく散歩に出かけた。 風の強い空の上からは、月が心もち大きく、まぶしく見える。 とはいっても、アツアツの二人に月を見ている余裕などなかった。 ふよふよと空中を泳ぐ蛇妖怪の背の上で、座る向きを変えて抱き合っていた。 吹きつける風からリクオを守るように抱きしめていた鴆の手は、舌を絡め、口腔をまさぐる接吻にリクオがうっとりとしている間に、不埒な動きをしはじめる。 乾いた大きな手が長着の裾を割り、白い内腿を撫でまわした。 「やめろって…」 口づけの合間にリクオが止めるが、潤んだ瞳も、甘いため息のような口調も、まったく説得力はない。 「こんなにはっきりあんたの顔が見えて、がまんできるかよ。満月の夜には、男はオオカミになるんだぜ?」 「何がオオカミだ…この馬鹿鳥」 憎まれ口は、温かい唇で塞がれた。付け根をなぞっていた鴆の手は、熱のこもる下帯をゆるく揉みしだく。 「やめねえか…鴆…ッ」 とうとう苦しくなって唇を離し、鴆の肩に額を押しつけてリクオが荒い息をつく。 「口ではそんなこといっても身体はとろとろだぜ。ほら」 「あんっ…」 手の中のものをぎゅっと握りこむと、形のよい唇からあられもない声が漏れた。 「なあ…ここでしてもいいか?」 足の付け根から熱のこもる下帯の中へと指を一本差し入れ、まばらで柔らかい下生えを撫でながら鴆が囁く。 「馬鹿っ、また羽織が…」 鴆の羽織を押さえるようにしがみつきながら、リクオが反論する。 初デートの時、同じような状況で夢中になって、妖力で押さえていた羽織を二人とも風に飛ばされてしまい、後でそれぞれ蛙の番頭と烏天狗にこってりしぼられたことがあった。 だが鴆はまったく凝りていないらしい。 「こうしていれば飛ばないだろ。いいから出しちまえよ」 「あっ、やめ…ッ」 こうなってしまえばもう誰も止められず。 リクオは鴆の手に導かれるまま、全身を震わせながら下帯の中に欲望を放った。 そうして空中での情交は、幸いにも黒羽丸に見つかることなく、羽織も失くさなかった。 「てめえのせいだぞ。どうしてくれる」 泣きはらしたような目でにらむリクオに、鴆は羽織は無事だったんだからいいじゃねえかと、尖った唇に機嫌よく口づけた。 「薬鴆堂に替えがあるだろ。新しいのもあるし。なんならオレのを貸してやろうか?」 「馬鹿っ」 ・・・・この夜失くした奴良組三代目の下帯が、全国を旅することになろうとは、この時の二人は知る由もなかった。
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