届いてほしい
1 鴆は朝から上機嫌だった。 夜になるにつれて心ここにあらず、気もそぞろだ。 今日は己の誕生日。 リクオと恋仲になるまでは、ひとつ年をとるごとに死が近づいてくるという認識しかなかったが、今年は違った。 何しろいつもは口淫すら恥ずかしがるリクオが、この日ばかりはどんなお願いでも聞いてくれるというのだ。 去年はとっさに思いついたことを実行したが、 せっかくの一年に一度の機会である。 今年はどんなお願いをして、リクオをかわいくいやらしく乱れさせようかと、 ずいぶん前から思案を重ね、入念に準備をしてきた。 蔵を漁って房事に役立つものはないかと、古今東西の書物を読みまくり、 ようやくこれはというものを見つけたのだ。 それを入手するのは困難だったが、つてを辿って、ようやく手に入れた。 盥の中でちゃぷんと水音を立てるそれを満足げに眺めていると、 鴆様、と部屋の外から声をかけられた。 「祝い膳の用意ができております」 「ああ。今行く」 誕生日だというので、今日は組員たちと膳を囲む。 軽い足取りで部屋を出ると、廊下で待っていた番頭がこちらをみていた。 「…ほどほどになさいませんと、嫌われますよ」 番頭の言葉に、鴆は首を傾げた。 「?おう」
|
||