届いてほしい
8 荒い呼吸が収まるまで、鴆は汗に濡れたリクオの背中をしっかりと抱きしめていた。 少し落ち着いてから自身を引き抜き、背中に、首筋に、そして仰向けにしたリクオの顔に、口づけの雨を降らせる。 離れがたく、しばらく口づけを繰り返してから、リクオと己の身体を清めた。 「もう、忘れた…?」 清潔な襦袢に包まれた恋人の白い額に口づけて尋ねると、リクオは眠気でとろんとした表情で頷いた。 鴆はほっとしてリクオを抱き寄せる。 「なら…生き物じゃなきゃ、今度使ってもいいか?」 お願いするなら今のうち。 耳元でそっと囁くと、しばらく間があった。 事後の甘い雰囲気に乗じてお伺いを立ててみたのだが。 バチーン! すさまじい音と衝撃が、鴆の頬を打った。
その次の週の総会のこと。 「まったく、いいかげんにしてほしいもんですな!」 一ツ目は頭から湯気を出して怒っていた。 外より涼しいはずの本家の大広間は、外に負けずに温度を上げていた。 原因は一ツ目が怒っているせい…ではない。 上段に胡坐をかいて座っている三代目と、上段から最も近いところに座っている鴆。 前回と同じく、二人は目を合わせることすらしないが、そこに居並ぶ幹部が暑苦しく感じているのは、 この二人から醸し出される熱気だった。 鴆の頬には、先日よりも鮮やかな赤い手形がつけられている。 「なんだ、一ツ目。うらやましいのか?」 上座にいるリクオは崩した膝に頬杖をつき、嫣然と笑う。 首筋や、はだけた胸元からのぞく花びらのような赤い痕が、ひどく艶めかしかった。 涼しい顔で尋ねるリクオに、一ツ目はとうとう切れた。
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