届いてほしい




荒い呼吸が収まるまで、鴆は汗に濡れたリクオの背中をしっかりと抱きしめていた。

少し落ち着いてから自身を引き抜き、背中に、首筋に、そして仰向けにしたリクオの顔に、口づけの雨を降らせる。

離れがたく、しばらく口づけを繰り返してから、リクオと己の身体を清めた。

「もう、忘れた…?」

清潔な襦袢に包まれた恋人の白い額に口づけて尋ねると、リクオは眠気でとろんとした表情で頷いた。

鴆はほっとしてリクオを抱き寄せる。

「なら…生き物じゃなきゃ、今度使ってもいいか?」

お願いするなら今のうち。

耳元でそっと囁くと、しばらく間があった。

事後の甘い雰囲気に乗じてお伺いを立ててみたのだが。

バチーン!

すさまじい音と衝撃が、鴆の頬を打った。




その次の週の総会のこと。

「まったく、いいかげんにしてほしいもんですな!」

一ツ目は頭から湯気を出して怒っていた。

外より涼しいはずの本家の大広間は、外に負けずに温度を上げていた。

原因は一ツ目が怒っているせい…ではない。

上段に胡坐をかいて座っている三代目と、上段から最も近いところに座っている鴆。

前回と同じく、二人は目を合わせることすらしないが、そこに居並ぶ幹部が暑苦しく感じているのは、

この二人から醸し出される熱気だった。

鴆の頬には、先日よりも鮮やかな赤い手形がつけられている。

「なんだ、一ツ目。うらやましいのか?」

上座にいるリクオは崩した膝に頬杖をつき、嫣然と笑う。

首筋や、はだけた胸元からのぞく花びらのような赤い痕が、ひどく艶めかしかった。

涼しい顔で尋ねるリクオに、一ツ目はとうとう切れた。




「目のやり場に困るんじゃボケェ!」


長々とお付き合いいただきありがとうございました!



 



裏越前屋