ばれんたいんその後 2





まずは濃厚な口づけで身体を蕩けさせることにした。すっかり濡れて温まった唇を幾度となく吸い上げる。
リクオの舌をひきこんで、吸いこみながら舌で扱けば、口淫を思わせるその動きに、白い頬はさらに朱を増した。

「は…ぁっ…」

唇を離すと、どちらのものとも分からない唾液が糸をひいた。焦点の合わない瞳でぼうっと鴆の顔を眺めていたリクオは、口端についた唾液の痕を恥じらうように、目を伏せた。
抵抗の意志がないのを確認して、髪や目元や頬、そしてまた唇にキスの雨を降らせながら、羽織を脱がせ、帯を緩めた。
深い口づけでリクオの思考を溶かしつつ、襟元を寛げ、差し入れた手で、細身ながら筋肉のしっかりついた胸に手を這わせた。

「あっ」

固くなだらかな胸の頂にある乳首をつまむと、小さな声が上がった。
思わず上げてしまった甘い声に、リクオは羞恥に頬を染め、顔を背ける。
露わになった、形のよい耳朶を甘噛みし、上気した首筋を唇と舌で味わいながら、指の腹の間で徐々に堅くなっていく乳首の感触を愉しんだ。

「あっ…あっ…」

両方の乳首をきつくつままれると、もはや声を抑えることができないらしく、リクオは普段よりもすこし高めの、甘さを含んだ声を上げた。
もう何度か抱いているのに未だに愛撫に慣れないようで、胸に与えられる刺激に落ちつか無げに身体をよじらせる。
こんな時でしか耳にすることのない声に息を荒くしながら、鴆は優美な鎖骨に歯を立て、窪みに口づけ、なだらかな胸筋に舌を這わせた。
鞭のようにしなやかな、無駄なく鍛えられた身体は、それでも成長途中ゆえの未熟さがわずかに残っていて、その青さが、均整のとれた身体に、危うい色香を加えていた。
まだ淡い綺麗な色をした乳首を口に含むと、若い身体がビクンと跳ねた。
先刻までつねっていたせいで、すっかり堅くなった果実を舌で転がし、弾力のあるそれに歯を立てる。
やめてほしいのか、続けて欲しいのか、逡巡する腕が胸に顔を埋めている鴆の頭を抱いた。
空いている方の鴆の手が、甘さを残す脇腹を這い、腰骨をなぞり、太腿へと降りた。
硬く引き締まった脚の、それでも皮膚が薄く柔らかい内腿をなでまわすと、リクオはビクリと大きく身体を震わせ、息をつめた。

胸から顔を上げれば、リクオは顔を背け、ぎゅっと目を閉じて口を引き結んでいる。
例えるなら、医者の治療を受ける子供の表情。
行為が嫌なわけではなく、ただ、どうふるまっていいのかわからないだけだと、今は知っているけれど。

「リクオ」

できるだけ優しく名前を呼んで、何度も安心させるように口づける。お前に触れているのはこの俺だと、わからせるように。

「ん・・・」

差し入れた舌に、今度は素直に応えて舌を絡ませてくる。秘めやかな水音を立てるようになると、強張った身体からようやく力が抜けた。
リクオはキスが好きだ。鴆にそうされていると安心するらしい。
しばらく啄んで、リクオの気持ちが落ち着いた頃合いを見計らって、鴆はリクオの中心に手を伸ばした。
手のひらに包むと、やはり身体が跳ねたが、口づけを解かずにいるうちに、再び力を抜いた。

「は…あっ・・・あっ…」

他の誰も触れたことのない、色も形も綺麗な雄は、鴆の手の中でみるみるうちに硬くなり、先端から透明な液を滲ませ始めた。
扱かれているうちに口づけが息苦しくなり、リクオは自分から唇を離して、快楽の声を漏らす。
口でしたらまたビビらせちまうかなあ、と考え、今夜のところは手でいかせてやることにする。
何度も唇を啄みながら、強く、速く扱いてやると、リクオは目元を快楽で赤く染め、かすれた嬌声を上げて鴆の手の中で達した。
自分しか見たことがない、リクオの鮮やかな表情を見届けて、鴆は灯台の近くに置いてあった丸い入れ物に手を伸ばす。

「ちょっと冷たいけど、我慢な」

荒い息を吐きながらまだ呆然としているリクオにそう言うと、入れ物の中の潤滑剤をたっぷりと指で掬い取り、奥まった場所にゆっくりと塗りこみはじめた。

「くっ…」
「息を吐け。ゆっくり」

久々の異物感に、リクオは瞬時に身体を強張らせ、鴆は一度指を離して指示を出す。
言われた通りに息を吐き、身体の力が抜けるのを待ってから、再び指を差し入れる。

「あ…」

中に入ってしまいさえすれば、後は身体が快楽の記憶を思い出すのを待つだけでいい。
ぬめる指で入口近くの浅い部分をゆっくりと抜き差ししていると、ようやくリクオの吐息に甘さが混じってきた。
指を入れられてから恥じらう余裕もないリクオの表情を注意深く観察しながら、鴆はゆっくりと指を奥へと進めていった。
半月ぶりに拓いたリクオの内部は狭く、燃えるように熱い。鴆を受け入れてはいるが、まだ戸惑っているような内壁を、脅かさないように、ゆっくりと指の腹をまわして擦っていると、

「あんっ…!」

いきなり、嬌声と共に、身体がびくんと跳ねた。
リクオを見れば、口を押さえて真っ赤になっている。
羞恥に駆られて暴れられる前に、手をどけて唇をふさいだ。
大丈夫だ、何もおかしくねぇよと、口づけの合間になだめながら、リクオのいいところを繰り返し擦りたてる。
すると今まで戸惑っていた内壁が、鴆の指を迎え入れるように、きゅうきゅうと締めつけ、柔らかく蠢きだした。
鴆を思い出し、ほころんだ内部に、指を一本、また一本と増やしていく。リクオ自身も、前回そこで感じたことを思い出したのか、
涙がこぼれ落ちそうに潤んだ、熱を湛えた目で、うっとりと鴆を見つめていた。
一度達したリクオの分身は、奥への刺激でとうに反り返り、先端から先走りの液を滴らせている。

「なあ、もう、いいか・・・?」

そう問うても、リクオに答えられるはずがない。
鴆は自分で頃合いを判断すると指を引き抜き、いきり立った自分の雄をあてがって、少しずつ押し入った。

「あっ・・・あああっ…」

狭い蕾の中に慎重に先端を埋めていき、リクオの呼吸に合わせて、ゆっくりと刀身を埋めていく。
時間をかけてすべてを納めきると、深い満足げな吐息と共にリクオを抱きしめ、口づけを交わした。
リクオが落ちついたのを見計らって、鴆はゆっくりと動き始めた。

「あっ・・・あっ・・・」

抜き差しする度に、リクオの口から甘い声が漏れる。
快楽の波にさらわれながらも、それに完全に身を委ねることをためらっている。
圧倒的な畏れを纏い、生まれながらにして人を従わせる力を持つ、この冷たくさえ見える美貌の主が、
今は鴆の下で、そんな可憐な表情をしていた。
百鬼を率いる主を鴆だけのものにすることはできないけれど、今このリクオだけは鴆だけが知っている、鴆だけのリクオだ。
胸が熱くなると同時に、リクオの中にいる己自身も、ズグリと熱く脈打った。
本能のままに、抜き差しする速度を速めた。
両脚をしっかりつかみがくがくと揺さぶると、リクオの腕は縋るものを求めるように、鴆の毒の模様の入った背中にしがみついた。
この期に及んでまだ羞恥を捨てきれないリクオの表情とは裏腹に、熱い内部は鴆の怒張をきつく締めつけては、やわらかく迎え入れる。
繰り返し突いているうちに、リクオの腰は無意識に、鴆の動きに合わせて揺れていた。

「あっ、ぜんっ、もう…ッ」

激しく揺さぶられた後、リクオはすがるように鴆の背中にしがみつき、二人の間に精を吐き出した。
きつく締まる内部に、鴆は歯を食いしばる。
まだビクビクと小刻みに震えている脚を抱え直し、さらに激しく突き上げた。
しなる身体の上に、ぽたぽたと汗が落ちる。

「出すぜ、リクオ…ッ」

鴆は荒い息と共に名前を呼びながら、リクオの中に欲望を注ぎ込んだ。





「…お前の身体はどこもかしこも綺麗だな」

男のものでありながら美しい形をした足を手に取り、鴆は押し頂くように口づけた。
白い足に何度も唇を落とし、次いで、すらりと長めの、足の指一本一本を口に含む。
だが、指の間に舌を差し入れた途端、ガツッと顔を蹴られた。

「ぐおっ」
「放せ、この変態鳥」

終わって正気に戻った途端、これだ。さっきまでは情事の余韻に夢うつつで、されるがままに世話さていたくせに。

「ってえな」
「くすぐってーんだよ。それより、せっかく持ってきてやったのにチョコ食わねー気かよ」

鴆によって身体を清められ、白の襦袢に包まれた情人は、赤い印の散った胸元といい、裾からすらりと伸びた脚といい、十分に雄を騒がせるものだったが、こちらを睨む不機嫌そうな表情には、先ほどの甘やかさは微塵も感じられない。
色っぽい時間はもう終わりかと、鴆はこっそりとため息をついた。

「はいはい、もちろんありがたくいただきますよ・・・お前も食うか?」

リクオにもらった包みからチョコレートを取り出し、いびつなハートを真っ二つに割ってリクオに差し出した。
口に入れたチョコレートは甘すぎず、中に細かく砕いた木の実が入っていて、形はともかく美味かった。

「うまいぞこれ・・・リクオ?」

また一口、頬張りながらリクオを見れば、

「・・・無神経だな、お前」

リクオはなぜか不機嫌そうに、差し出したチョコをもぎ取った。





おわり






やたら長くなっちゃってすいません;
誘い受けも襲い受けも好きだけど、見た目に反して初心い夜若に萌えます。





裏越前屋