夜ドラ

3



「ん…」

弾力のある唇と共に、その間から洩れる甘い声を貪っていると、猩影を殴った拳がズキリと痛んだ。
間違ったことは言っていない。自覚がなければ人の心をもてあそんでいいわけはない。
だが、目の前でリクオがしゅんとなってしまった時、鴆の良心は痛んだ。

本当のところ、リクオに説教したのは、雪女や猩影のためでも、リクオ自身のためでもなかった。
リクオが誰かれ構わず無自覚に誘惑してまわることに、鴆自身が我慢できなかっただけだ。
妖怪の主として、百鬼を集めていかなければならないのはわかる。
集めた百鬼にとって、常に強く魅力的な存在でなければいけないことも。
だが自分の恋人でもある彼が、他の誰かを口説くのを、心穏やかに見ていられるわけがなかった。

罪悪感と己の狭量さ加減を押し隠すように、愛しい人の口内をまさぐり、舌を絡めて吸い上げた。
熱く湿った柔らかい部分を擦り合わせる感触を、リクオは目元を赤く染めて、うっとりと眼を閉じて味わっている。
恋人と呼べる関係になって半年以上経った今でも、彼はこんな初心な表情を見せる。
心も身体も蕩けさせてしまいたくて、鴆は自分にもたれかかっている身体に巻きついている帯を解いた。
存分に口腔を堪能した後、形の良い唇を何度となく啄み、白い頬に、貝殻のような耳に、無防備なうなじに唇を押しあてる。
緩んだ合わせから手を差し入れ、なだらかな胸の頂を指でつまむと、リクオは小さな声をあげた。

「あっ…」

二本の指の腹の間で押しつぶすように、きつくつまんだり引っ張ったりする度に、吐息交じりの甘い声が上がる。
耳元をくすぐるリクオの甘い声と、弄っているうちにみるみる堅くなる小さな粒の感触に鴆の息も荒くなる。
用意された褥にリクオを横たえ、白い肌をあらわにしながら、すっかり堅く尖った桃色の乳首に吸いついた。

「アッ・・・ン!」

若い身体がビクンと跳ねる。口腔の次に快楽を教え込んだ箇所は鴆の愛撫に素直に応えた。
敏感になっている部分をきつく吸ったり歯を立てたりしているうちに鴆の下腹も次第に興奮する。
乳首を弄っていない方の手でリクオの下帯を緩めつつ、すでに堅くなっているそこをリクオのそこに擦り合せた。

「あ…あっ」

布越しでもしっかりわかる鴆の雄の堅さに、半勃ちだったリクオのそこもあっという間に堅くなる。
うるんだ瞳に無意識の媚態を含ませて見上げるリクオの唇を軽く啄み、緩めた下帯の下に手を差し入れた。
早くも先端からこぼれた液で、濡れた分身に直に触れると、リクオは安堵したような、甘いため息をついた。
乳首への愛撫を続けながら、分身を握りこんで強めに扱いてやると、弱い部分を同時に攻められた身体はビクビクと跳ね、さらなる刺激を求めて無意識に腰を揺らした。
本当はリクオ自身も口で愛したかったが、この初心な恋人はそれをやると恥ずかしがって機嫌を損ねかねない。
今夜は勘弁してやることにして、そのかわり、と鴆はリクオからいったん身体を離し、組み敷いていた身体を反転させた。
ゆっくり時間をかけて甘やかしたかったが、乱れるリクオの様子に煽られて、鴆にも余裕がなくなってしまった。

「後ろからすんのか…?」

獣の姿勢にさせられて、どことなく不安を滲ませた声に、鴆はなだめるように背中に口づけた。

「いいだろ?お前の百鬼を抱かせてくれよ」

顔の見えない後背位に未だに不安をおぼえるリクオだったが、己の背に浮かぶ百鬼の模様を、鴆が気に入っていることは知っている。
だから京都から帰ってきて以来、後ろから抱きたいと言えば抵抗はしなかった。

反りかえった分身をゆるやかに扱き、奥に潤滑剤を塗り込めながら、背中の百鬼の模様をひとつひとつ、舌でたどり、あるいは強く吸い上げて痕を残した。抱く度に増えている模様は、リクオと百鬼との絆がより強くなったという証だ。
自分の主(あるじ)が他の妖怪たちに認められていくのは確かに誇らしく、嬉しく感じるが、同時に鬼纏の時の、あの身体を重ねた時のような一体感を、他の者とも味わっているのかと思うとやはり心穏やかではいられない。
だがこの妖怪の主を組み敷いて、百鬼の模様に自分の胸の模様を重ね合わせて身体を繋げる時だけは、リクオに対する愛しさと同時に、他の者に対する優越感をも覚えた。
前線で彼と共に戦えなくとも、この背中を抱けるのは自分だけだと。

「アッ…!」

奥を探っていた指を引き抜き、張りつめきった怒張を潜り込ませると、指で感じていた以上の熱が鴆を包みこんだ。
きつい内部が鴆を取り込み、絡みついて、精を絞り取ろうと締めあげる。
ゆっくりと息を吐かせながら身体を進め、全てがおさまった時には密着した身体がお互いの汗でしっとりと濡れていた。

「あっ・・・ぁあん・・・」

背と胸を密着させ、白い首筋に何度となく唇を落しながら動き始める。
堅く張った部分で粘膜を擦りたてる度に、リクオは甘い声を上げた。
締めつけがきついのは、いつもより感じている証拠だ。
獣の体勢で受け入れることを恥ずかしがっているだけに、余計に敏感になっている。
片方の手で乳首を、もう片方の手で分身を愛撫しながらゆっくりと腰を動かすと、リクオは身体を震わせて鴆をきゅうきゅうと締めつけた。
きつい内部に抗うように、鴆はリクオの奥を穿ち、しだいに腰を打ち付ける速度を増していった。

「あっ!あんっ!あんっ!あんっ!」

肉を打ち付ける乾いた音と、繋がった部分が立てるいやらしい水音が室内に満ちる。
鴆は浮いた腰骨を両手で掴み、少しでも奥を穿とうと両の親指で小さく締まった双丘を押し開いた。
あられもなく繋がっている部分に満足と興奮を覚えながら、己の欲望を呑みこんでいる小さな蕾を蹂躙する。

「あっ…ぜんっ…もう…っ」

上体を支えていた二の腕から力が抜け、鴆と同じ模様の入った肩が白い敷布に沈む。
尻だけを上げて鴆に突き出した、はしたない恰好で、リクオは鴆に哀願した。
あえて前には触れず、堅い先端でリクオのイイところを激しく擦りたてると、彼はかすれた悲鳴を上げて、後ろだけの刺激で熱を吐き出した。

「あ…ぁ…!」
「…リクオッ…」

絶頂の瞬間に一層きつく締めつけられて、鴆もリクオの中に欲望を吐き出した。




後始末の後、襦袢姿で隣に潜り込むと、鴆は気になっていたことを思い出した。

「そういや、なんで畏を使わなかったんだよ。あんたなら簡単に逃げられただろうが」

まさか猩影に気があったんじゃないだろうな、と目を据わらせると、頭に拳が降ってきた。

「いてっ」
「…最初は、でけー犬になつかれているくれーにしか思わなかったんだよ」

それが帯に手をかけられ、腰に堅い物まで押し付けられて、頭が真っ白になってしまったという。
気まり悪そうにぼそぼそというリクオを見ながら、鴆はあの時あの場所にリクオを探しに来てよかったと改めて思うと同時に、犬扱いされた猩影に心から同情した。

「殴っちまって悪かったな・・・」

この場にいない猩影にむけて呟けば、

「怪我したのは、むしろおめーだろ。無茶しやがって」

猩影はあれくらいじゃびくともしねーよ。
リクオはそう言って、痛々しく腫れた拳にそっと唇を押しあてた。

「これはオレの手なんだから、大事に扱えよな」

情事の余韻を残した瞳で、愛しい恋人はしっとりと鴆を見上げてそう言った。



髪をすいているうちに眠ってしまったリクオの、幾分幼く見える寝顔を眺めながら、鴆はそっとため息をついた。

リクオの無自覚は、おそらくは本家の皆に愛されて育った結果だ。
愛されることを疑わないゆえに、思ったままを口にする。
リクオは奴良組の宝だ。だから大事に育てられてきたのは喜ばしいことなのだが。

頼むからせめて自分の言葉がもつ影響力くらい、

(もうちょっと自覚してもらわねーと、心配でおちおち寝てもいられねーよ)

見た目よりも数倍危なっかしい恋人の頬に、鴆は哀願するように唇を落した。



おわり

2

裏越前屋


若…じゃなかった三代目、猩影も気遣ってあげてください。
そして気遣ったらまた1にもどってエンドレス・・・。