夜ドラ

2



「――頭いてぇ・・・」

鴆は額を押さえた。

「ならさっさと休んだらどうだ?」

親切心で言ってやったのに、

「あんたのその天然さ加減が頭いてぇって言ってんだよ!」

なぜか怒鳴られた。

襲われたのはこっちだというのに、鴆はなぜかリクオに怒っているようで。
痛いほど手首をつかんで鴆にあてがった部屋に連れてくるなり、そこに座れと、座布団の上に正座させられ。
同じく向かい合わせに正座した鴆に、猩影とのやりとりを一言一句違えず聞かせろと凄まれて。
言われたとおりに話してやったにもかかわらず、この反応だ。

「オレは思った通りに言っただけだぜ。それのどこがわりーんだよ」

誰が天然だと、不機嫌を隠さず鴆を睨み据えれば、

「・・・あんた、そんなに襲われてぇのか」

ふいに、表情を消した顔で静かに言われて、リクオは口をつぐんだ。
気性の激しい彼がこんな風に話すのは、彼が本当に怒っている時だ。

「たとえあんたにその気がなくたって、言われた方は誤解するし、期待しちまうんだよ。自分があんたの特別になれるんじゃねぇかってな。現に雪女も猩影もそうだったろうが。思わせぶりな言葉は、期待させた分だけ相手を傷つけるもんだ。わかったら少しは自重しろ」

いつになく厳しい口調に、リクオは唇を噛んで俯いた。
思わせぶりなことなど言ったつもりはない。だけど鴆の言葉は胸に刺さった。
つららも猩影も、もしかして他の誰かも、そうやって気づかぬうちに傷つけていたのだろうか。

膝の上で拳を握りしめて、黙り込んでしまったリクオを見て、鴆は表情を和らげた。

「――まあ、あんたのそれがなかったら、オレもあんたの恋人にゃなれなかっただろうけどな」

軽い口調で言われた言葉に、リクオは目を見開いた。

「そうなのか?」

思わず顔を上げると、鴆はもう穏やかな表情でこちらを見ている。

「『お前になら何されても構わねえ』って言ったんだぜ?けど口づけした時、あんたはオレに恋愛感情なんて持ってなかっだろうが」
「あ…」
「思わせぶりの意味、わかったか?」

思わず口元に手をやるリクオを見て、鴆は肩をすくめて笑った。

「危ねー危ねー。最初にあんたに口説かれたのが猩影だったら、殴られたのはオレの方だったってこった。最初に盃を交わしたことといい、オレはつくづく運がいい」

「・・・そうじゃねえよ」

鴆の言葉を、リクオは遮った。上手く言えるかわからないが、どうしても否定せずにはいられなかった。

「最初だったからなんて関係ねえ。お前に言った言葉はお前にしか言わねぇよ。確かに何も知らねえで口にしたけど、本当にお前なら構わねぇって思ったんだ」

思わせぶりなんかじゃない。鴆を意識するようになったのは、確かに口づけられた後からだったけれど。
たぶん子供の頃から、鴆はリクオにとって特別な存在だった。

真剣なまなざしで言い募るリクオに、鴆は目を見開き、それからため息をついた。

「…まったく。さっきオレが言ったこと、わかってんのかねえ…」

それでも、その顔は満更でもなさそうだった。
膝が近づいて、骨ばった両手が伸びてくる。

「それなら口説くのはオレだけにしておけ。オレに言った言葉は他の奴には言うなよ」

ようやく優しく抱き寄せられて。リクオは嗅ぎ慣れた鴆の匂いに包まれながら、こくりと頷いた。



つづく

1

裏越前屋


説教編です。オフのネタをちょこっと持ち込みましたが大丈夫でしょうか;
次はエロです。