虎美(こび)
前編

by LUCIAさま

  

 

 

 土曜日。悪夢がまた始まる。

「いやああああ!!!」

 高耶の秘所は前戯もなく貫かれた。腿を伝って血がシーツを赤く染め上げた。
 高耶の背に覆い被さった男は何度も突き上げた。薄く笑みを浮かべながら。悲鳴は かすれ、嗚咽に変わる。
 直江は己を差し込んだまま高耶の体を仰向けた。内壁が擦られ高耶はまた声をあげ た。

「これが欲しいのでしょう?」

 涙に濡れた瞳で高耶が見上げてくる。その目の前で直江は白い封筒を振ってみせた 。高耶がそれに手を伸ばそうとするとすいっ、と遠ざけた。高耶が睨み付けると楽し そうに笑う。

 そう、この男は楽しんでいる――。

 封筒をサイドテーブルに置くと直江は腰を揺らし始めた。サイレンのような鳴き声 が再開される。悪夢は永遠に続くかに思えた。




 高耶が目を覚ますと直江はもういなかった。いつものことなので驚きはしない。
 サイドテーブルに封筒が置かれたままになっていた。高耶は手に取る。中に入って いるのは金。通常の援交より金額が多いのは、この躰の痛みから考えると当然だった 。

「ご機嫌だな、義明」
 兄の経営する不動産屋で日曜日にもかかわらず仕事をしていた男は、社長である兄 にそう声をかけられた。この男こそ直江だった。人に言えない関係を結ぶときに本名 を名乗る馬鹿はいない。「直江」は彼の夜の名だった。
 二人が出会ったのは出会いサイトを通してだった。女に飽きた直江と金の必要な高 耶。需要と供給の関係。それが二人の繋がりだった。高耶に金がいる理由は聞いてい ないが、生活費に充てているようだ。そんなことは義明にはどうでもよかった。金を 払った分だけ満足させてくれれば。

 最初はそう思っていた。

 高耶は動くたびに軋む体でシャワーを浴び、自分の下宿へ帰った。レポートを書か ねばならない。高耶は勤労学生なのだった。直江がくれる金は自分の学費と妹の生活 費に充てている。それでもまだ足りないので、水・木・金曜日にバイトをしていた。 なぜ月・火はしないのかというと、直江に痛めつけられて体がつらいからだ。
 会ったばかりの頃はこんなではなかった、と高耶は思う。直江は優しかった。確か に女だったら誰でも落ちるだろう、というほどに。
 それがいつからか、愛撫が苛酷になり、酷薄な笑みを浮かべて高耶を犯すようになった。高耶の躰を壊れんばかりに抱き、血が止まらなくて怖い思いをしたこともあっ た。でも、土曜日が来るたびに彼と会う。

 土曜日を心待ちにして仕事をする自分がいる。今や「直江」になるのが義明の楽し みのすべてだった。どれほど酷い仕打ちをしても高耶の眼が屈辱に染まることはない 。野生の虎を思わせる、その眼差し。どんなに着飾った女より美しいと思った。土曜 日ごとに彼を痛めつけるのは、その躰に自分を刻み込ませたいからだ。痛みが続く間 は高耶は直江を忘れることができない。所有の印を肌に刻印すれば誰にもそのしなやな躰を与えることができない。独占欲がうごめく。新しい自分。



 土曜日が待ちきれない――。

 

 

後編

いただきもの部屋

 

 



ふ…ふふふ。BDねたなのになぜ!?と思われるあなた、後編へすすみませう!
女に飽きて男を買う直江…しかもきっかけは出会いサイト!
一見割りきった関係でお互い想いがすれちがい…。こんな二人がどうなるのでしょうか?