うらしまたかや
〜そのいち〜
ばーい てりーさま
その日も暇をもてあまして外の世界を覗いていた竜宮城の主は、その時、世界が
一変する ような衝撃を受けた。
「好みだ…。なんとしても俺の側に置いておきたい…」
そう、竜宮城の主は自分の好みにぴったりの人間を見つけてしまったのだ。
完璧な一目惚れである。
そうして、その日から竜宮城の主、直江の作戦が始まったのだ。
見初められてしまった人間には、ただの災難の始まりである。
「それじゃあ、美弥。俺は魚釣りに行ってくるからな」
仰木高耶はいつものように川へ魚釣りに行く。
仰木の家は、その昔はここら一帯の長者だったのだがそれも洪水で家や田畑が駄目になり、
今は父と兄妹の3人貧乏暮らしである。
父親は飲んだくれ、兄妹はその日の食べるものにも困るほどだった。しかし兄妹は2人、
助 け合ってどうにか日々を過ごしていた。
「おにいちゃんこそ、気をつけてね。美弥ももうちょっとしたら成田さんの所に行くから」
兄の高耶は山や川へ行き、暮らしに入りような物を採ってくる。妹の美弥は
庄屋の成田とい う家の下働きに行っている。朝は日が昇るとともに、夜は月が傾くまで
2人で懸命に生きていた。
そうして、いつものように高耶は海へと向かったのだ。
「まぁ、これだけあればもつだろう」
びくにいっぱいの魚を釣った高耶は空を見上げる。
空はまだ明るく、太陽はようやく傾きかけた頃だった。
「今日はまだ早いな…。海にでも行くか。何かあるかもしれないし」
少しでも家計を助けようと、時間があればどこにでも行く高耶である。
この前は山で色々と山菜を見繕ってきたので、今日は海に行って昆布か何かを捜そう。
そう考えた高耶は、その足を海へ向けた。
砂が熱を持っている。草履越しにでもはっきりとわかるその熱を足の裏に感じながら、
高耶は砂浜を歩いていた。
すると、どこからか子供の声が聞こえてきた。2,3人ほどらしい。
声に誘われてそちらに目を向けると、子供たちは何かを囲んでいた。手には木の枝や
ど こから持ってきたのか、箒を持っている子供もいる。
「おい、お前たち何してんだ?」
そんな子供たちの楽しげな様子に興味を引かれた高耶は、何気なく声をかけた。
すると、それまで夢中で何かをしていた子供たちがはじかれたように高耶を見る。
子供 たちが振り返ったひょうしに真ん中にいた物が見える。
亀だ。それもとても大きな。しかし、頭は甲良の中に隠れている。
「お前ら、亀をいじめてたのか?」
その言葉に子供たちの様子は3通りに別れた。ばつの悪そうな顔をする子、にやにやと
笑う子、そして高耶を気の毒な目で見る子に。
一体何をしていたのかはよくわからないが、一応ここは年長者として注意しておくべき
であろう。そう考えた高耶は担いでいた釣り竿を子供たちに向けてから、言い放つ。
「動物をいじめてはいけないぞ?」
高耶としては普段からは考えられないくらい丁寧な言葉遣いをしたのだが、そんな高耶の
言動に、子供たちはなんの注意も払っていなかった。そうして3人で顔を見合わせると、
一気に駆け出していった。すぐにその姿が見えなくなる。
子供たちのすばしっこさにあきれながらも、高耶が亀の方を見ると、ようやく亀は頭を表した
ところだった。
「おい、どうしてこんな所にいるんだよ。ここにいると子供たちにいじめられるから、
早く帰った方がいい」
「助けて下さってどうもありがとうございます」
亀にそんな言葉を掛けていると、どこからともなく声が聞こえてきた。どこかに人が
い るのかと思い、高耶は辺りを見回すが、人の影すらなかった。
「ここです、この亀です」
そんな言葉に、高耶は半信半疑で亀を見る。その亀の琥珀色の瞳は、高耶を一心に
見ていた。
しかし、亀が話すなんて事は信じられず、高耶はそれでも辺りを見回す。
すると、亀は信じてくれない事に苛立ったのかのそのそと高耶の方に這ってきた。
「私ですよ。今あなたに話しているのは」
いくら高耶が辺りを見回してもそれらしき人影は全くない。そして、こちらに這ってく る亀の
必死な目を見ていると、そう信じてやってもいいかとも思い始めた。
「お前か。まぁ、早く海へ帰れよ」
一応、その不気味な亀に声をかける。
自分は疲れてるんだと思うことにして、今日は海での収穫を諦めて帰ろうとその亀に
きびすを返そうとした。
「お礼をしないことには帰れません。どうか、私の背にのって下さい。竜宮城へ
案内します」
「お礼って言われても、俺には家で待っている妹がいるんだよ」
父のことはどうでもいいが、妹のことは目に入れても痛くないほどかわいがっている
高耶で ある。
そんな妹をほっとけないのもあるが、こんなアヤシイ亀についていく暇なんて無いのが
正直なところである。
「わかりました。妹さんは竜王様に頼んであなたが留守の間も大丈夫なように
して貰います。助けて貰ったお礼もさせてくれないんですか…?」
そんな亀の言葉に騙されるような高耶ではない。一体何を”大丈夫”なように
してくれるというのか。
そして、この亀の言動にはどこか身の危険を感じる。
「いや、だけど礼をされるようなこともしてないからさ…」
後ずさりながら言う高耶に、なおも亀は言い募る。
「竜宮城に来たら、おみやげをたくさんいただけますよ?これから一生裕福に暮らして
いけるくらいの。 …それにこのまま帰ったら私が非難されます。助けて貰った…」
「ああ、もうわかったよ!」
なおも亀が言い募ろうとしているところを途中でさえぎる。こんな炎天下で長々と
話を聞かされてはたまった物ではない。
「すぐ帰ってもいいなら、行ってやるよ、その竜宮城とやらに!」
「それはもう、もちろんです。それでは、私の背中にのって下さい」
「美弥のことはきちんとしてくれるんだろうな?」
念を押すのを忘れない高耶である。亀はもう、頭を海に向けている。
「それはもちろん…」
その亀の言葉に一応安心したのか、高耶はその亀の背中にまたがった。
亀は海の中へ入ってゆく。その亀の顔はどこか恍惚としていた。
「ところで、あなたのお名前はなんというのですか?」
海の中でも呼吸が普通にできるというあやしい現象にも、だんだん慣れつつあった高耶に、
亀が間抜けな質問をしてきた。
「あ、ああ。仰木高耶っていうんだ」
「高耶さんですか。いいお名前ですね」
不思議なことがありすぎて、世の中の常識のラインがあやふやになってきている。
しかし、一生裕福に暮らせるだけのお土産というのに心を奪われている高耶には、
そんなことはどうで も良かった。ただ、早く土産を貰って帰ることだけを考えていた。
亀の甲羅の上で海へ潜っていくことしばらく、そのうちに海底に城が見えてきた。
薄暗い海 の底でそこだけが光っている。
「おい、亀。あれがそうなのか?」
「そうですよ、高耶さん。後もう少しです」
実際に目の前に立派な城が入ってくると、俄然と現実味を帯びてくる土産。
一体どんな物が 貰えるのかと、期待で胸を膨らませながら、高耶はその城を見ていた。
―待ってろよ!美弥!―
門が目の前に迫る。当たり前ながら、そこには門番が居る。どんな顔をしているのだろうと
思い、高耶が目を凝らしてみるとなんて事はない、人間と同じ顔をしている。
「なんだ、俺てっきり鯛やヒラメが門番をしてるのかと思ってた」
「あれは、鯛ですよ?」
高耶がいくらか興ざめした様子で、ぽつりと漏らす。亀は、何を言っているのだ、
という様子で高耶に言った。
「え、だって人間に見えるぞ?」
「ああ、そう見えるようにしているだけですよ。今は、魚も人型が好きなんです」
そんな亀の言葉に高耶は納得して、そうして気づいた。
「じゃあ、お前も人型になれるわけ?」
「もちろんなれますよ」
だんだん亀との会話もおかしな方向へ行っている。もう、だいぶ高耶の常識も崩れてきたよ うだ。
「どうして、人型じゃないんだ?」
「あなたを案内するのに人型では不便なんですよ。それに…」
亀はそこまで言うと、不意に言葉を切った。高耶はどうしたのかと、亀の顔をのぞき込む。
だんだんこの亀の表情もわかってきた。今は、どうやらあわてているようだ。
「危ないですから、乗り出さないで下さい!」
「お前が変なところで言葉を切るからだろ?」
「なんでもありませんよ!バランスを崩します!」
高耶が亀の顔を覗き込んでいるうちに門を通りすぎたようだ。門の中は、地上の城と
何らかわりがなかった。高耶は今まで、城という物を見たことがなかったが、
こんな物かと感慨深げにあたりを見ていた。
城の内部も迷うことなく、亀は進んでいく。そして急に視界が開けたと思うとそこは、
ちょ っとした広場だった。
「さあ、高耶さん。ここから先はあれが案内してくれます。あれについていって下さいね」
「ああ、わかった。ありがとな」
亀の言葉に促されて、高耶はその背中から降りてあたりを見わたす。見たこともないような
立派な広場である。ここだけで、高耶の家の敷地の何十倍もありそうだ。
「世の中って不公平だ世なぁ…」
そんなことをつぶやきながら、案内をしてくれる人を捜そうとした。すると、目の前に
見たこともないような人がいる。
整った顔立ちをしていて、背中の中程まである髪は茶色でうねっている。高耶が今まで
見たこともないような綺麗な女であった。
「はじめまして。ええと、高耶君だったわね。私は綾子」
「あ、よろしくお願いします。…あれ?」
目の前の女の人に見とれていて忘れていたが、ここまで案内してきた亀の姿が見あたらない。
「どうかした?」
「ええと、あの、俺をここまで連れてきた…」
高耶がそこまで言うと、綾子は愛想笑いを浮かべて言う。
「ああ、あれはね、ちょっと用事があってね…。もういなくなったのよ…」
そんな綾子の台詞に、高耶はちょっと残念そうな顔をした。
「そうなのか。…俺、あいつの名前も聞いてねぇや」
「まぁ、あんなのはほっといて、さ。こっちよ」
綾子の促しに、ここまできた理由を思い出した。そう、一生楽に暮らせるだけのお土産だ。
それがあれば、こんな暮らしは続けなくていい。美弥にだって楽をさせられる。
そう考えて ついてきたことを思い出したのだ。
そうして、高耶は城の中を歩いていった。
目の前には大きな扉がある。ここの彫刻は他の所に比べて格段に立派だ。そして、この扉の
前にだけ、また門番がいる。
(ここが、竜王とかいう奴の部屋か…。)
高耶がそうあたりをつけていると、ビンゴ。綾子が門番に言ったのである。
「直江の言いつけ通り、つれてきたわよ」
「はい。聞いております」
綾子にもいやに畏まった態度をとっている。
(このお姉さんも実はエライ人なのかな…)
高耶には、門番に向かいあっている綾子の表情は読みとれない。その時綾子がどんな
表情をしていたか、高耶が知っていれば…高耶は詰問せずにはいられなかっただろう。
しかし、綾子は振り返ったときにはそんな事はみじんも表情に出していなかった。
「じゃあ、高耶。ここからは1人でね」
そう言って、綾子は廊下の奥へと消えていった。そんな綾子を見送っていると、扉が開く
音がする。
その音に、高耶は顔を元に戻した。開けられてゆく扉からは光があふれ出してくる。
そうして、扉は全て開かれた。その部屋のずっと奥に何かに腰をかけている人がいる。
その人の所までは、何百人という人が敬礼をして立っていた。
そんな真ん中にできた道を高耶は歩いてゆく。ぴんと張りつめた空気が高耶の皮膚を
刺激する。
(早く土産を貰って帰りたい…)
そんなことを考えながら、歩いてゆくと、ようやくその腰をかけている人の前に着いた。
色男である。茶色い髪に、琥珀色の瞳。そして…
「高耶さん。ようこそ竜宮城へ」
不覚ながらも、高耶はその人に見とれてしまった。高耶が住んでいた所では見たことも
な いような人。
「高耶さん?」
声をかけられて、ようやく我に返る。
「あ、ああ…」
それでも、目は離せない。一体どうしたんだろうと思いながらも、高耶はそのまま、
目の 前の人を見つめていた。
「初めまして。私は直江といいます。地上の1日はここでは100日にあたります。
どう かゆっくりとしていって下さいね」
「うん…」
自分の意識がどこかに行ってしまったようで、まともな返事か返せない。
「それでは、どうぞここへお座りなさい」
そんな直江の言葉に、逆らえない自分を高耶ははっきりと感じていた。
「さぁ、宴会だ」
直江の言葉とともに、竜宮城の宴が始まる。一度見ると忘れることのできない、美しい宴が。
しかし高耶は、目の前のこの世の物とは思えないほど美しい光景や、おいしい料理よりも、
自分の隣にいる、優しい目をしたこの男の事が、一番気になっていた。
Crisis
Gameのてりーさまからいただきました♪
たいとる、またもや恭子が勝手につけましたvvvす、すみませ・・・っvvv
よくみるとそこここに直江けちょんの気配が・・・(笑)。あやしい亀・・・vvv
この時点で身の危険を察知するとはさすが高耶さん!でも察知するにもかかわらず
直江の策略にまんまとはまってしまうのもやっぱり高耶さん・・・(笑)。
このままおいしくいただかれてしまうのでせうか!?それともおもわぬ逆転劇が!?
続きがまちどおしいです〜〜(>_<)
すてきな小説、ありがとうございました〜〜〜!!!
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