十一月 銀杏
3 南郷が山の上の社にたどり着いた時には、もうとっくに日は暮れていた。 庭には紅葉、竜胆、女郎花 桔梗など秋の花木が色どりを与えているはずだが、灯篭に照らし出された部分を除いて、そのほとんどは闇に沈んでいる。 部屋には通されたものの、アカギが来る気配はない。女房に尋ねても、お待ちくださいと答えるばかり。
うれしい確信にいてもたってもいられず、南郷は部屋を飛び出し、庭を回って裏の小川へと急いだ。 「アカギッ…お前、何やってるんだっ!!」 冬物の袷(あわせ)を着ていてさえ寒い神無月、しかもここは山の上である。 「風邪引くだろうが!早くあがってこい!!」 南郷は直衣を脱ぐと、全身ずぶぬれになって川から上がってきたアカギに頭から被せて、水気を吸い取らせた。 「こんな寒い時期に何考えているんだ。湯浴みすりゃいいだろうが」 部屋の明かりの中で改めて見ると、ぼろぼろなのは衣服だけではなかった。 「野菜じゃなくて薬草を持ってくるべきだったな…」 大きな怪我はないようだが、身体じゅうのいたるところについた切り傷や擦り傷を見て、自分の方が痛そうに顔をゆがめる南郷に、薬草なら庭に生えているけど、傷口は洗ったし、大した怪我じゃないから大丈夫、とアカギは答えた。 「だけど、ちゃんと手当した方が…」 冷え切って震えている華奢な身体をさすりながら、おろおろする南郷の言葉を、アカギが遮った。 「欲しいのは薬じゃない」 細い指が、南郷の単衣を、皺になるほど握りしめた。 「あんたが欲しい」 南郷の目をまっすぐに見上げ、アカギは望みを口にした。
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