十一月 銀杏
4 「手当て」という言葉があるように、ただ触れるだけでも他人に自分の「気」を与えることはできる。 「んっ…」 冷たい唇に唇を重ねると、冷たい舌が南郷の舌に絡みついてきて、貪るように唾液をすすった。 だが濡れた帯というのはなかなかに解きにくい。しかも衣服のくたびれ具合からいって、何日も着替えをしていなかった感じだ。 「自分で脱ごうか?」 ここは求められている自分がしっかりリードしてやるべきじゃないのか、と逡巡しているうちに、アカギは南郷の手から帯を取り上げ、さっさと自分で解いてしまった。 「いいから…早くきてよ…」 高燈台に照らし出された華奢な身体は、あちこちに切り傷をつくっているものの、蝋のように滑らかな肌だった。 南郷は燈台のそばにある丸い小物入れを引き寄せると、馬の油だとかいう、軟膏のようなものを手にすくった。 「狭いな…」 思わず呟きながら入口を撫でまわすと、アカギがため息のような嬌声を漏らしながら身をよじった。慎重に指の先を入れると、やはりきついのか、白い眉根が寄った。馬油を指につけたして、ゆっくりと中に入っていく。油脂はアカギの中で熱く溶けて、南郷の指を招き入れる手助けをした。 「あっ…あっ…」 指を抜き差しするたびにアカギが喘ぐ。瞳は快楽に潤み、青白かった頬にはいつのまにか朱がさしていた。油脂をつけながら指を徐々に増やしていくと、最初硬く侵入を拒んでいた内部は、次第に南郷を思い出して、やわらかく指を呑み込み、締め付けるようになった。 「もういいから…っ」 アカギの言葉に応えて、南郷は指を引き抜き、すでに張りつめきった自身をあてがった。 「あああんっ…!」 油脂の助けを借りて、欲望が狭い肉壁を押し広げて入ってくる。硬い雄の感触がたまらないのか、アカギは先端から透明な液を滴らせながら、南郷を何度も締め付けた。まだ熟していないくせにひどくいやらしい、好色な身体。愛おしさと同時にひどく凶暴な気分にもなって、南郷は華奢な腰骨を両手でしっかりとつかむと、その身体に思い切り腰を打ち付け始めた。 「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ」 奥を穿つ度にアカギが高い声で鳴く。途中で何を思ったのか、手で口を覆ったのを外させた。 「おまえの声、ちゃんと聞かせてくれよ…」 快楽に正直なアカギの声を聞いていると、中の欲望がますます大きくなる。もっと鳴かせようと大きく腰を打ち付けると、結合部分が融けた油脂やどちらのものともつかない体液でクチュクチュと卑猥な音を立てた。 「あっ、あっ、あっ…」 揺さぶられるままに、素直に声を上げるその姿に、南郷の胸がきゅうっと締め付けられる。 久々の一体感に、まだ繋がっていたい気持ちもあったが、ひとまずはアカギが今すぐに欲しているものを与えてやらねばならない。 「くっ…出すぞ…アカギ…っ」 熱く狭い内部に未練を残しつつも、細腰に一層激しく腰を打ち付け、己の精を残らず奥へと注ぎこんだ。 ***** 南郷が「気」を注ぎこんだおかげでアカギの身体は血色とぬくもりを取り戻した。 時刻はまだぎりぎり亥の四つを過ぎたあたりで、高燈台の炎がゆらゆらと照らす部屋の中で、単衣だけ羽織った二人は黙々と餅を食べた。 「なんかこうして二人で食ってると…三日夜餅みたいだな…」 何の気なしに呟いてから、南郷ははっと口をつぐんだ。 アカギは最後の一口を口に入れ、指についた餅をぺろりと舐めながら、そんな南郷をちらりと見た。 「な、なんだよその白けた目は!」 「…」 「ちょっと言ってみただけだっ、やることやってるし、同じようなもんだろ!?」 「…」 「…ああもう」 一人恥ずかしい連想をし、しかもそれが空振りに終わった決まり悪さに、南郷はしょんぼりと肩を落とした。 「三日夜餅食べたんなら…後朝の歌もくれるんだよね?」 うれしいはずのアカギの返事に、南郷はぎくりと身体をこわばらせた。 「あの…あのな…文じゃだめか…?」 世にも情けない顔で哀願する南郷に、アカギはぷっと吹き出した。 「朝までここにいるなら、歌は勘弁してあげるよ」 彼が声を上げて笑うのを、久々に聞いた。
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